研究課題/領域番号 |
17K10065
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
松浦 晃洋 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (70157238)
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研究分担者 |
杵渕 幸 藤田保健衛生大学, 医学部, 准教授 (30244346)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 元素分析 / シンクロトロン放射光 / 蛍光X線マッピング / 遺伝病 / 銅代謝異常 / 鉄代謝異常 / 脳神経系 / 肝臓 |
研究実績の概要 |
本研究により研究遂行に必要な条件を決定できた。第一に放射光の輝度に加え、安定性・操作性などを含め、Spring-8およびPhoton Factory両施設において、微量元素の検出と局在解析に求められるエネルギー解像度を満たすことが可能となった。特に、ナノビームを用いた解析ではこれまでにない高い空間解像度に到達することができた。イメージングには通常の結晶解析などより遥かに時間が掛かるため、ビームタイムの確保に繋がった。第二に、病理組織専用ビームラインはなく、実験の都度、集光素子・検出装置・スキャン装置等を設営しビーム集光や検出器などの複数の条件を至適化する必要がある。担当者と事前の打ち合わせを密にし効率的な測定を試行した。標準試料からほぼ安定したシグナルを得られた。トップアップ運転でない場合に、データ補正や画像化に関して解決すべき点がある。時間を掛けて一つずつ解析する以外に、データ解析のプログラム作成による半自動化が必要である。第三に、試料作成過程の標準化を行った。第四に、スキャンデータ解析プログラムにより元素の可視化が容易になった。銅過剰(ウィルソン病)、銅欠乏(メンケス病)について検索を行った。採取片が微量で、生化学的解析で定量が難しい、あるいは信頼できない値がでた症例でも、他の症例と比べ納得のゆくフォトンカウントが得られ、特に、針生検標本の診断に有効であることが検証できた。フォトンカウントからの局所濃度の絶対定量の必要性が強く求められ、次年度の大きな課題として追求して行く所存である。すなわち、本研究の病理組織切片1枚の測定で、ウィルソン病の確定診断が可能となると期待される。今後、症例を重ね元素の局在部位と傷害の成立との関連を検討する。微小領域の銅の絶対的定量および中心原子の化学状態と原子近傍構造を解析し、細胞傷害との関連を追求する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
二つの放射光施設の課題申請が採択され、シンクロトロン光による組織診断を順調に推敲できている。1)長年の基礎実験が実を結び、試料作成と測定部位の選択、実験ハッチの設定や実際の操作に精通したため、エラーが少なくなり、安定した結果が得られるようになった。2)集積した症例について、異なる施設・実験条件で測定することにより、いわば「自前の標準試料」を準備できている。これにより人工的なシグナルか真正のシグナルかを見極めるられるようになった。ビーム条件は電力供給の状態(季節)や施設の運転モードなど、極めて多くの要因が影響するため、いつも一定しているとは言えず、また、同じビームタイムであっても測定時のビーム条件はかなりfragileであることは避けられない現実である。同一試料の場所や条件を変えて、複数回測定することにより、測定データの補正を適切に行うことが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
かなり順調で測定そのものはうまくいっているが、症例が集積するにつれ、解析上の問題が大きくなってきている。すなわち、1)データ解析・画像化プロセスに時間が掛かる。かなり同じような処理を繰り返すので、労力と時間が掛かっている。現在、専門家に相談しつつ、自前の解析プログラムを作成し、半自動化を目指している。これにより、容易にデータを作成し、改変して、要覧することで、ステージによる違いなどの全体像を把握しやすくする。2)UMIN-CTRに登録して行うことで、信頼性を得て、症例の集積に寄与する。実際には、観察研究に相当する部分が多いので、さらに症例の集積性を高め、要覧で得られるステージ毎の印象の変化を具体的な数値化、画像化したもので表現して、病態の客観的把握と診断基準の策定に役立てるべく進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
高輝度光科学研究センターの一般課題に採択され、ビームタイム費用が減免されたため、その分の費用を浮かすことができたことが大きな理由である。国際学会や研究会で発表を行い、外国の研究者と情報交換を行った。その結果、米国あるいは欧州にある第3世代の放射光施設を用いている研究者の提示する論文のデータの内容に微妙な違いがあって、なぜそのような標準化を行っているかが不明の点が多い。例えば、燐Pをバックグラウンドとして引き算して各元素の解析を行うなど、原理的にはかなり問題のある手法を用いている。そこで、海外の放射光施設で実験を行い、比較する必要があると考えるに至った。どの点が優れているかを明確にして、手法の標準化を行い、世界基準の診断システムの構築ができると期待される。実際の測定経験や空間解像度は私たちの画像が相当高く、症例の集積性も優れているので、国外研究者の興味を大きく引いている。初年度は分担研究者の技能向上も含め、国内施設での測定を主体とした。 海外施設でのビームタイムの取得や実験には相当まとまった時間が必要で、相当程度の費用が必要であるので、次年度以降に持ち越した。今後は、国際共同研究として発展させることを考えている。
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