研究課題/領域番号 |
17K10065
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
松浦 晃洋 藤田医科大学, 医学部, 教授 (70157238)
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研究分担者 |
杵渕 幸 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (30244346)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ウィルソン病 / 銅代謝異常疾患 / シンクロトン放射光 / 蛍光X線分析 / 組織元素イメージング |
研究実績の概要 |
Wilson病の臨床各科での実地診断は必ずしも容易でない。特に、近年になってKinnier Wilsonが当初報告したような、①神経徴候(錐体外路徴候、脳レンス核変性)、②Kaiser-Fleisher角膜輪、③肝硬変の三主徴を呈して受診するような進行した状態で受診することは稀である。一方では、肝機能異常が遷延してウイルス感染や明かな原因が特定できない場合に、血清セルロプラスミン・血清銅・尿中銅などの銅関連検査を実施し、異常があった場合に、ATP7B遺伝子検査と肝組織銅の生化学的検査を行う事が増えている。私どもの収集している症例でも約60-70%が症状を呈さない発症前型とされるものである。こういった症例の診断時における問題点は、①病原変異の見つからない場合が10-15%程度あること、②生化学的定量に十分な量の組織を採取するのが困難であること、③銅染色は肝炎期においてWilson病でも100%陰性であることである。結果として最終診断ができない症例がかなりある。特に、生化学的な解析は侵襲性の高い肝楔状切除が求められ、患者・両親・主治医とも逡巡して、針生検となることが多い。採取量が不足すると秤量が不正確になり測定しても、異常値(極端な高値あるいは測定不可能)がでることが多い。そこで、放射光X線による組織切片の解析は非常に薄い切片が1枚あれば、十分な強度を持つ元素特異的なシグナルが得られ実測してみると測定感度が高いことが判明した。さらに走査測定によって一定範囲のデータを収集し、画像化の自動プログラムを開発して、銅の可視化が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
銅過剰を示すウィルソン病は比較的多くの、時期の異なる症例が集まっており、現在測定を順調に進めている。発症前診断が可能となった。銅欠乏のメンケス病については初代培養株を樹立し、さらに不死化細胞ラインを得ることに成功した。銅の挙動の解析中である。測定条件を工夫して、広い範囲の組織解析が容易になった。病理切片で言うとマクロ画像に該当するものである。その中で、シグナルのある場所を選んで、より解像度の高い測定をおこなうことで、効率的に微小領域の解析を行う事ができるようになった。ビームタイム毎にビーム条件が変わるため、取得したデータの比較が難しい面もあったが、濃度の判った生体試料を参照して相対的な比較は可能で、局所濃度の絶対値の決定に問題がある。銅については極微量の標準試料が準備できたので、組織切片から得られる銅特異的光子数の範囲を大体カバーすることが期待される。研究成果は一部英語論文にするとともに、国際会議Copper2018にて発表した。国内では日本神経学会でのシンポジウムに招かれ「脳神経と肝臓のクロストーク」において「ウイルソン病の高精度診断」タイトルで講演するまでに至った。 しかしながら、2018年度において、ビームダンプ(故障)等により、十分なビームタイムを確保できず、またSPring-8の施設の支援体制も変わり、解析ソフトや測定方法が変わったため、特に、高解像度の解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内小器官レベルでの解析のため高解像度~超高解像度の測定を行い、さらに細胞傷害と局所の銅濃度の関係を調べる。 組織の元素イメージングをビームサイズ30-50um程度に設定し広い範囲(15x15mm)をおおまかに測定し、そこで気づいた特徴のある部位をよりビームを絞り(5-8um)にて中範囲領域(500x1000um四方)を測定する。その後、ビームサイズ(0.8-1um)にて 微小領域の解析を行う(150-400um四方)、さらに、ナノビームサイズ(200-300nm)の高輝度放射光により、極微小領域(30-100um)を測定することで、細胞レベルさらには細胞小器官レベルでの局在を明らかにする。傷害との銅の蓄積量を細胞を選んで検討し、銅の化学的存在様式はX線吸収分光XAFSを用いて明らかにする。客観的指標を規定するため極微量レベルでの定量を行う。銅の標準試料は極微量のため場所によるバリエーションに注意しつつ結果を評価し絶対値の算出を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は放射光の利用において一般課題に採択され、成果公開優先利用が少なかったため想定した金額の支出が少なかった。また、米国の第三世代放射光施設APSでの申請実験が時間的に限定され、回避を余儀なくされた。よって、本年度は国内での広範囲測定に注力して実験を行った。本年度行えなかった高輝度放射光実験を次年度に国内と国外の放射光施設で行うこととした。その分の費用として次年度に回すことになった。
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