Spring-8およびPhoton Factoryの二つの放射光施設を用いて、前年度までに確立した試料作成技術の工夫により安定した蛍光X線シグナルを得られるようになり、最終年度は、5例の新規ウイルソン病症例について統合的な解析を行うことができた。さらに、定量に関して進歩を実現した。即ち、測定領域の組織切片上の微小領域における銅の量はこれまで、SDD検出器でのシグナル(Photon数)によって算出してきたが、放射光施設の運転モードやビームタイム毎に変動する要素がある。異なる測定時期の試料における銅の量を比較するため、存在量の範囲で適切な標準となる量を含む薄膜を調整した。絶対量の算出が可能になり、これまで10症例と健常対照5例について、局所濃度の比較を行った。生化学的測定値と概ね相関した。イメージングにて濃淡の強い部分・症例ついても量の差が算出可能となった。 以上から、ATP7B遺伝子変異解析、生化学的定量、組織元素イメージングの3つの組み合わせによって、より精度の高い診断が可能となった。特に、発症前から早期の肝炎期のウイルソン病では、組織化学染色が陰性なので、病理診断はできないとされてきたが、残余試料を用いたレトロスペクティブな確定診断が可能となった。診療ガイドラインでは推奨されているが、実際には実行が難しい腹腔鏡下肝生検(楔状切除)を行わずとも、針生検試料のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの1枚の切片があれば測定可能となった。固定時間の影響、保管期間についてはさらに検討する余地はあるが、一定の標準的手技に則った方法で作成したブロックであれば、少なくとも20年前のものでも測定可能であった。経時的な肝組織の評価は行われているので、初回の治療前生検と治療後の生検の組織を比較すれば、治療効果の客観的指標となる可能性がある。画像解析の自動化プログラムはWindows10に移行したときに不具合が生じたので改良の余地がある。
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