研究課題
社会脳の発達は、自己像認知から、自他身体弁別、視線・意図認知、他者の心を読み、共感へと進展していく。共感の神経ネットワークは、社会脳ニューロンネットワークと重なるため、共感に関する研究は医学・教育領域で重要なテーマと考えられる。共感ネットワークであるエモーショナルネットワークを研究対象として、自己と他者の意思決定に対する快・不快の側性化を評価して共感の神経生理学的な検討を行った。対象は健常右利き成人男性10名。課題遂行中に前頭部と中心部のβ帯域の脳波周波数分析を行って非対称性指数を算出した。課題は、①実行課題:PC上に2枚の選択カードを呈示し、被験者はいずれかを選択。試行ごとに加・減点が表示される。②応援課題:他者の実行課題を観察する。両課題ともに被験者は合計点に応じて報酬が得られると教示される。導出・記録方法は、国際10-20法により定義された両側前頭部(F3,F4)からミユキ技研社製生体信号収録装置ポリメイトIIを使用した。周波数解析は、のるぷろライトシステムズ社製専用ソフトウェアにより、β帯域を中心周波数 20Hz、帯域幅5Hz、各導出部位のパワースペクトル値を解析して時間分解能は1秒とした。解析結果は、非対称性指数Log10(R2/L2)として算出した。不快情動で右前頭葉の活性化(β波パワーの増大)が脳波周波数解析で判明した。両課題ともに非対称性指数は加・減点提示でそれぞれ左・右にシフトし、他者の減点に対する反応でより右半球へのシフトが顕著だった 前頭葉β波の非対称指数の検討から、他者の損得に対する情動(共感)変化の定量化が可能となった。損得が自己、他者の判断に依存する状況では「自厳他寛」でないことが示唆される。さらに、自閉スペクトラムにおける快・不快に対する脳機能の側方性が定型発達児と異なる可能性の検討を施行している。
2: おおむね順調に進展している
健常成人において、不快情動で右前頭葉の活性化(β波パワーの増大)が脳波周波数解析で判明した。前頭葉β波の非対称指数の検討から、他者の損得に対する情動(共感)変化の定量化が可能となった。その結果から、自閉スペクトラム症(ASD)をはじめとした発達障害児における快・不快に対する脳機能の側方性が定型発達児と異なる可能性が見出されてきている。本研究の成果は、各学会において発表された。1)大山哲男、後藤裕介、青柳閣郎、石井佐綾香、金村英秋、相原正男. 脳波周波数解析を用いた共感における前頭葉機能の側性化についての検討. 第60回日本小児神経学 会学術集会. 2018年5月31~6月2日. 幕張. 2)後藤裕介、青柳閣郎、石井佐綾香、大山哲男、相原正男. 快・不快に関する共感の神経心理学的研究 ~脳波周波数解析を用いた検討~. 第48回日本臨床神経生理学会 学術大会. 2018年11月8~10日. 東京.さらに、学術誌の特集号に掲載され、学会誌において特集号を代表が編集した。1)相原正男. 心の健やかな発達/つまずきと脳ー感情ー.特別企画:子どもの発達と脳.こころの科学 2018; 200: 34-40. 2)相原正男. 緒言. 特集「小児神経生理学の進歩」. 臨床神経生理学2018; 46: 111.
共感に関わる3つの神経ネットワークの研究を、さらに進展していく。特に、発達障害児者を対象にした成果を治療、教育に応用していく予定である。本研究成果は、日本臨床神経生理学会において、シンポジウム「共感に関する神経生理学」を相原が立案し、大山らがシンポジストとして発表する予定である。
物品費用が、見積もりより安く購入されたため、次年度使用額が生じたものと考えます。翌年度分の報告書作成に使用する計画である。
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Epilepsia
巻: 59 ページ: 1867-1880
10.1111/epi.13671
こころの科学
巻: 200 ページ: 34-40
日本臨床
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臨床神経生理学
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