社会脳の発達は、自己像認知から、自他身体弁別、視線・意図認知、他者の心を読み、共感へと進展していく。共感の神経ネットワークは、社会脳ニューロンネットワークと重なるため、共感に関する研究は教育学、医学領域が融合して関わるべき重要なテーマと考えられる。3つのニューロンネットワークを研究対象とした。 1)エモーショナルネットワークは、2人の被験者の脳波周波数を測定し、被験者の情動反応を生理学的に解析した。不快情動で右前頭葉の活性化(β波パワーの増大)が脳波周波数解析で判明した。前頭葉β波の非対称指数の検討から、他者の損得に対する情動(共感)変化の定量化が可能となった。その結果を踏まえて、自閉スペクトラム症(ASD)における快・不快に対する脳機能の側方性が健常者のそれと異なる可能性が見出されてきている。 2)ミラーニューロンネットワークは、二者協応と三者協応との仕組みが質的に異なる可能性が明らかとなった。さらに、アスペルガー患者と健常者との動作協応実験が進行してきており、健常者と異なり場の状況から動作開始の決定が困難であることが示唆されてきた。 3)メンタラジングネットワークである心の痛みや対人認識は、発達障害児(ASD、ADHD)を対象に検討した。「痛み」に関する表現を4歳~6歳の定型発達児32名、3歳~11歳の知的障害を伴わないASD・ADHD12名を比較し、形容詞のレパートリーが少ないこと、痛みへの具体的対処を示す動詞が見られないこと、及び「痛み」感覚の保護者との共有が乏しいことを見出している。
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