研究実績の概要 |
本研究においては、ヒト末梢血T細胞からの直接的な神経細胞誘導技術を開発し、神経疾患のモデル細胞化を目指すものである。第二年度目はすでに確立した血球細胞からの神経細胞への直接的な分化転換法「センダイウイルスによるOct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, NeuroD1, Ascl1, Brn2, Zic1の導入」を用いて、さらに作出細胞のキャラクタライゼーションと、誘導因子の簡略化についての検討を行った。また、疾患患者由来血球細胞を用いた直接誘導への応用を目指して、まず複数の健常人ドナーからの誘導効率の再現性確認や凍結サンプルからの実験再現性などを確認した。 その結果、誘導された神経細胞は、主に興奮性神経細胞であったが、一部抑制性神経細胞が認められた。また、神経細胞マーカー発現を呈している細胞のほとんどは、増殖性マーカーのKi67発現は陰性で、これは実際のヒト組織や幹細胞から分化誘導された神経細胞と同様の状態であることが分かった。また、末梢神経系のマーカーは発現されず、基本的に中枢神経細胞であることも分かった。 つぎに、誘導で用いる転写因子のうち神経系因子についての必要十分性を再確認したところ、少なくとも神経に分化するだけであれば、NeuroD1の存在が意義深いことが分かった。 また複数の健常人ドナーや海外サンプルの凍結試料を用いて誘導を行っても、誘導効率の再現を得ることができたことから、疾患応用の可能性が高まった。 今後、疾患患者由来の血球系細胞からの神経分化転換を試みるため、まずは疾患特異的不死化リンパ芽球などを用いて分化誘導を試験してみる予定である。さらに実際に、表現型解析や創薬の基盤になる方法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに、末梢血T細胞からの直接神経細胞誘導の最適化が完了した。すなわち、遺伝子導入の条件・基礎培地・添加化合物・細胞外接着因子の組み合わせが決まった。そこで、当初の予定通り、作出された神経細胞がどのような性質を有した細胞であるかを検証するために、免疫染色法によりキャラクタライゼーションを行った。その結果、Octr3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, NeuroD1, Ascl1, Brn2, Zic1でう誘導した場合は、興奮性神経細胞の割合が多く、抑制性神経細胞はやや少なかった。また、神経細胞マーカー発現を呈している細胞のほとんどは、増殖性マーカーのKi67発現は陰性で、これは実際のヒト組織や幹細胞から分化誘導された神経細胞と同様の状態であることが分かった。また、末梢神経系のマーカーは発現されず、基本的に中枢神経細胞であることも分かった。これらの結果は定量的RT-PCRでも同様の結果を示していた。 これだけでなく、神経誘導因子の組み合わせを変えたところ、Ascl1, Brn2, Zic1を除いた誘導でも効率的なことが分かり、かつ興奮性神経細胞の割合をさらに高める傾向にあった。 一方で、神経機能を確認しようと、電気生理学試験を試みたが、少なくとも自発性の発火スパイクのようなものは、現状では認められなかった。 一連の検討実験により、作出された細胞のキャラクターについて転写因子の組み合わせに依存して変化するところまで、詳細に調べることができた。今後は機能的性質を調べるため、引き続き電気生理試験やカルシウムイメージング等を試みる必要がある。
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