研究実績の概要 |
本研究は、ヒト末梢血T細胞からの直接的な神経細胞誘導技術を開発し、神経疾患のモデル細胞化を目指すものである。最終年度は神経疾患のスクリーニングを見すえた実験系構築として、効率的かつ簡便な分化誘導方法の最適化を行った。 確立済みのセンダイウイルスによる「Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, NeuroD1の導入」を用いた分化細胞は興奮性神経細胞のマーカー遺伝子(VGluT1)陽性の細胞が多いことがわかった。またイメージングの詳細条件を検討し、VGluT1はin vivoで見られるようなPunctaが軸索に散在するかたちで同定された。すなわち機能性遺伝子が発現しているだけでなく、正しい局在性や機能性を担っていると考えられる。しかもこれをイメージサイトメーター(In Cell Analyzer 6000)で迅速に定量することを可能にした。 またパーキンソン病やALSの解析ができるようにドパミン神経細胞や運動神経細胞への特異的な分化誘導の可否を検討した。まず本分化誘導で得られる遺伝子発現の傾向を知るために、得られた細胞のRNA-Seqを行った。その結果、ドパミン神経細胞マーカーや運動神経細胞マーカーの発現は低いものの、一般的な神経分化法であるiPS細胞へのNgn2遺伝子導入法よりは高い誘導効率が得られていることが分かった。そこで、その効率を上げ、サブタイプ特異的な神経細胞を作出させるため、センダイウイルスとは別途にレンチウイルスで追加遺伝子導入を試みた。これまで、我々は末梢血単核球へのレンチウイルス感染の効率は不完全であったが、ウイルスの純度と細胞接着の条件を調整し、ほぼ100%の高率でレンチウイルスの感染をさせることに成功した。 以上の技術構築によって、患者多検体を用いた末梢血単核球からの効率的なサブタイプ特異的な直接神経誘導の実現に近づいたと考えられる。
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