研究課題/領域番号 |
17K10084
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
田嶼 朝子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (00328337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 1型糖尿病 / 自己免疫破綻 / ICA69 / ノックアウトマウス |
研究実績の概要 |
本研究は、1型糖尿病(T1D)自然発症モデルであるNOD/ShiJclマウスにおいて、遺伝子組換えによりT1Dの自己抗原のひとつであるICA69の発現を抑制し、糖尿病ならびに併発する他の自己免疫疾患の発症が促進されるかどうかを検討することを目的とする。 平成29/30年度:米国ピッツバーグ市、Institute of Cellular Therapeutics、Allegheny Health NetworkからICA69ノックアウトNOD(ICA-NOD)マウスの輸入を予定したが、同研究室における同マウスの繁殖状況や輸入の手続きに時間を要し、実際にマウスの飼育を開始できたのは平成30年2月であった。繁殖用の雌ICA-NODマウスは輸入した時点で2匹共に高血糖を呈しその後死亡したため、ICA-NOD系統を継続させるためにICA69ヘテロ欠損型の雄マウスと雌NOD/ShiJclマウスとの交配を開始した。生まれたマウスを遺伝子解析により野生型、ヘテロ欠損型、ホモ欠損型に判別し、生後8-10週目から2週間毎を目安に血糖を測定して糖尿病発症時期を追跡した。マウスの繁殖が安定してから、組織学的評価やRNA抽出のために組織を採取した。 平成31年/令和元年度:これまでの実験を継続した。ヘテロ欠損型の雌は妊娠中に高血糖になると生まれた子マウスが脆弱であったり、子マウスを育てられないことが多く、マウス数が一時的に停滞したため目標とするサンプル数が揃わなかった。 令和2年度:12、20、30週齢に糖尿病を発症していないマウスから組織を採取しホルマリンに保存した。野生型およびヘテロ欠損型において膵臓、甲状腺のHE染色を行い、リンパ球浸潤の程度を評価した。 令和3年度:これまでに200匹以上のマウスについて遺伝子解析を行った。HE染色の評価を行うと同時に、免疫組織染色の準備をすすめた。また胸腺および膵臓についてRNAを抽出し、リアルタイムPCRを用いたIca1遺伝子の発現量に関して解析を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度はICA-NODマウスの飼育開始が遅れたが平成30年度からマウスの繁殖を開始し、その後は概ね順調にすすみ、これまでに200匹以上のマウスが出生した。遺伝子解析を終えた201匹のうち、野生型は雄36匹、雌20匹、ヘテロ欠損型は雄60匹、雌58匹、ホモ欠損型は雄6匹、雌21匹であった。出生数の比率について統計学的評価はまだであるが、ホモ欠損型は生まれにくい傾向があると考えられた。これらのマウスにおける糖尿病発症時期を検討したところ、当初の評価ではICA-NOD野生型、ヘテロ欠損型いずれにおいても、糖尿病発症率は雄と比較し雌においてより高率であった。発症時期は、雌は野生型よりもヘテロ欠損型の方が約3週間早かったが、雄は野生型の方が早期に高血糖を呈した。サンプル数が増加しているため、改めて統計学的な評価を要する。 実験は野生型およびヘテロ欠損型を使用したが、ヘテロ欠損型は繁殖にも使用するため、マウスが不足しがちであった。とくに雌においては、元来高血糖になりやすく、妊娠によって早期に高血糖を呈したり、出産しても死に至ることがあった。繁殖に新たなヘテロ欠損型雌マウスを補う結果、当初はヘテロ欠損型の数が不十分であったが、ここ数年で雌雄ともに目標のサンプル数をほぼ得ることができた。対象とする週齢(12、20、30週齢)に糖尿病を発症していない野生型、ヘテロ欠損型のマウスから、胸腺、唾液腺、甲状腺、膵臓を採取し、ホルマリン固定あるいは-80℃で凍結保存した。ホルマリン固定したサンプルは主に膵臓、甲状腺を用いてHE染色を行い、リンパ球浸潤の程度について評価を行っている。また、凍結保存したサンプルから抽出したRNAをcDNAに転写し、リアルタイムPCRを用いてIca1遺伝子発現量を測定している。実験を行ったサンプル数がまだ少なく、いずれも統計学的に有意な差は出ていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は組織学的評価およびICA69をエンコードするIca1遺伝子のRNAレベルでの発現量の評価を中心に行う。 ICA-NODマウスの野生型およびヘテロ欠損型について、これまでに採取したホルマリン保存のサンプルのうち膵臓、甲状腺を中心としてHE染色における組織中のリンパ球浸潤の程度を評価する(膵臓についてはinsulitis scoreを使用)。免疫組織染色では各組織におけるCD4陽性、CD8陽性T細胞の存在やインスリン、ICA69の発現を定性的に確認する。 定量的評価として、各組織から抽出したRNAをcDNAに転写し、リアルタイムPCRを用いてIca1遺伝子の発現を測定する。これらをハウスキーピング遺伝子(HPRT;ヒポキサンチンリボシルトランスフェラーゼを使用)の発現量と比較した上で、組織間における差を検討する。 これらの結果を各遺伝子型あるいは雌雄で比較し、ICA69の発現を抑制すると、ICA69を発現する複数の組織において自己免疫反応が惹起されることを明らかにしたい。以上により、ICA69に対する自己免疫の破綻が1型糖尿病の発症を促進するか、また他の自己免疫性内分泌疾患を誘発するか否かを明らかにし、得られた知見をまとめる。 なお、追加実験を想定し、今後もこれまで通りICA-NODマウスの繁殖を継続し、定期的な血糖測定を行いながら、必要に応じて糖尿病発症前のマウス(12、20、30週齢)から各種検体を採取する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度以降、ICA-NODマウスの繁殖はほぼ順調であるが、研究対象の一つであるヘテロ欠損型の雌は①高血糖になりやすい、②交配に必要、③交配用としても高血糖を呈した場合は新しい雌マウスが必要、といった理由から不足しがちであった。途中で妊娠しにくいマウスがいたことから、推測していたよりもヘテロ欠損型の雌マウスが不足し、目標とする数に至らなかった。そのため飼育費や検体処理、実験に要する費用が少なかった。ここ数年はコロナウイルス蔓延の影響で研究室への入室をひかえた時期もあり、実験の進行が予定以上に遅れたため、新たな試薬の購入が少なく、次の年度への使用額が生じた。 昨年度までに目標とするサンプル数はほぼ揃ったが、現在はHE染色、免疫組織染色やRNA発現量の評価が滞っている。次年度はそれらの実験を継続するための試薬を購入したり、追加実験が必要となった場合に用いるICA-NODマウスを維持する飼育費のために研究費を使用する予定である。
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