研究課題/領域番号 |
17K10086
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
倉橋 宏和 愛知医科大学, 医学部, 講師 (30621817)
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研究分担者 |
垣田 博樹 愛知医科大学, 医学部, 講師 (40528949)
奥村 彰久 愛知医科大学, 医学部, 教授 (60303624)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミクログリア / サイトカイン / ミエリン |
研究実績の概要 |
グリアは脳内微小環境の恒常性維持に関与している。グリアの関与に着目することで、脳炎・脳症の病態をニューロン障害とは異なる面から理解することが期待できる。現在、急性脳炎・脳症に対して明らかに有効といえる治療法はないが、グリアの役割を明らかにすることは新規治療の開発につながる可能性がある。 ラットの脳から分離培養したミクログリアをLPSと低酸素・低糖濃度環境刺激に対する反応を観察した実験では、LPS刺激では炎症性サイトカインとiNOSの上昇を認めたが、LPS及び低酸素・低糖濃度環境を組み合わせた場合はiNOSがより高値となり、炎症性サイトカインは上昇するもののLPS単独刺激ほどは上昇しなかった。この結果は、低酸素・低糖刺激のみでは急性脳炎・脳症のモデルとなりうる反応を惹起することは困難であること、低酸素・低糖刺激とLPS刺激では、ミクログリアで惹起される反応が異なることを示唆し、急性脳炎・脳症を一元的な機序で説明することの困難さを反映していると考えられた。 ミクログリアを用いた実験と並行して、ミエリンに着目した解析を行なった。ミエリンはグリアと関連した脳炎・脳症に関与する因子であり、グリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトから形成され、軸索を被覆することにより神経伝導を速めている。オリゴデンドロサイトに発現しているMYRFは、ミエリン関連遺伝子の制御に関与しており、その機能異常によりミエリンを形成する様々な成分の発現が障害されることが予想されるため、急性脳症に関与する多様な病態の解明についての重要な手がかりとなりうる。我々は脳梁膨大部病変を持つ脳症症例に対し全エクソーム解析をおこない、MYRFによって発現が制御されている遺伝子のうちいくつかにおいて、バリアントを認める傾向が強いことを観察した。今後も症例の収集を行い、解析を継続する方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
培養ミクログリアを用いた実験系で、環境温変化などの各種刺激による変化の測定を行った。低酸素・低糖条件では炎症性サイトカインの上昇はLPS単独刺激より軽度であり、脳炎・脳症のモデルとなりうる反応を惹起することは難しかった。そのため、高温(37℃)および低温(34℃)での反応の違いについて解析した。その結果、低温ではLPS刺激による炎症性サイトカインおよびiNOsの放出が抑制された。また、低温条件下での培養ミクログリアと神経細胞との共培養では、LPS刺激による神経細胞障害が抑制された。 急性脳炎・脳症の遺伝学的背景の解明のための遺伝子解析では、可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(MERS)の家族例2家系において変異が同定されたMYRF遺伝子を軸に解析を行なった。反復性および家族性のMERS症例を対象に、MYRFで制御される可能性のある約700の遺伝子について次世代シーケンサーを用いた解析を行い、神経疾患をもたない対照群と比較した。その結果、バリアントをもつ遺伝子の数には差を認めなかったが、MERS症例と対照群ではバリアントを認める遺伝子が異なっていた。バリアントを認める頻度の高かったいくつかの遺伝子を中心に解析を進めているが、明らかな関連があると考えられる遺伝子の同定には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
ミクログリアを用いた実験では、急性脳炎・脳症を一元的に説明するモデルは困難であったため、LPS刺激によるミクログリアの活性化や神経細胞障害の解析を継続する方針である。MERS症例で認められたMYRF関連遺伝子についても、症例の蓄積を行い関与がより強く疑われる遺伝子を絞り込む。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞を用いた実験にかかる費用が予定を下回ったこと、および、COVID-19の流行に伴い、その他の小児感染症が減少し、新規発症のMERS症例が少ない状況が継続している。症例の集積が進まなかったことから、次年度使用額が生じた。次年度もMERS症例の集積および急性脳炎・脳症症例に対する遺伝子解析を継続するとともに、グリア細胞を用いた研究も行い、過不足なく使用する計画である。
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