妊娠期における細菌性やウイルス性感染により生じた母体免疫活性化(MIA)は、出生児の自閉性スペクトラム障害や統合失調症の危険因子の一つとして考えられており、動物基礎研究においても社会性行動異常を呈する病態モデル動物として再現されている。本研究ではMIAにより生後の社会性行動異常を持つモデルマウスの脳機能ネットワークへの影響を調べるため、陽電子断層撮影法(PET)や安静時機能的磁気共鳴撮影法(rs-fMRI)による生体イメージングを行った。本実験方法は、最初に妊娠12.5日目のマウスに二本鎖RNA人工合成物であり疑似ウイルス感染を引き起こすpoly(I:C)を腹腔内投与し、その後出生した雄性マウス(Poly(I:C)処置群)を10週齢で対個体への社会性行動を評価する3チャンバーテストを実施した。Poly(I:C)処置群での社会性行動異常を確認した後、同一マウスを覚醒下にてrs-fMRIおよびPETイメージングを行った。rs-fMRIでは社会性行動異常を呈したpoly(I:C)処置群ではPBS処置群との比較で大脳皮質の広範囲での機能的連絡性が亢進しており、以前に報告されたASD患者を対象としたヒトfMRI研究と同様の結果が得られた。また、18F標識フルオロデオキシグルコースによるPETイメージングでは、poly(I:C)処置群の脳糖代謝はPBS処置群に比べて、視床および中脳領域で有意に低く、皮質領域にて有意な高値であった。本研究での結果から、MIAによる脳発達障害のモデルマウスでは、生後での脳幹部における脳神経活動低下に関連した大脳皮質領域での機能的ネットワーク異常が社会性行動異常と関連していることが推測される。
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