ダウン症新生児の約10%は、未熟な巨核球が一過性に異常増殖する血液疾患(TAM)を発症する。TAMは早期死亡率と急性巨核芽球性白血病(ML-DS)への進行リスクが高率である。本研究の目的は、効果的でかつ副作用の少ないTAMの新規治療法の開発とML-DS発症の予防を目指し、TAMの発症と芽球の増殖メカニズムを明らかにすることである。TAMとML-DSのほぼ全例に、巨核球の分化に必須の転写因子GATA1の、N末端を欠くタンパク(GATA1s)の発現を招く遺伝子変異が検出されること、また、TAMとML-DSにおいては、細胞増殖を促進するチロシンキナーゼ型受容体KIT遺伝子の発現量が高いことから、 GATA1sによるKIT遺伝子の発現制御に焦点をあて、研究を実施した。 研究代表者は、GATA1変異のない巨核球系細胞株にGATA1遺伝子のゲノム編集を行い、TAMと同様にGATA1に代わってGATA1sが発現する細胞株(GATA1s細胞株)を作成している。GATA1s細胞株では、親株と比較してKIT遺伝子の発現が増加する。また、KIT遺伝子上流にはGATA1が結合している。GATA1は本質的には転写活性化因子であるが、クロマチン高次構造形成をもたらすことでKIT遺伝子発現を抑制する一方、GATA1sはその機能を欠いていると推測された。 そこで、GATA1s細胞株と親株において、ゲノム上の2点間の三次元的な近接関係を検出するChromosome conformation capture (3C)を改良したアッセイ法を行った。結果から、GATA1存在下とGATA1sのみ存在下の環境でのKIT遺伝子の高次構造の違いが明らかとなった。また、ヒストン修飾のクロマチン免疫沈降-シークエンス(ChIP-seq)を行い、親株とGATA1s細胞株におけるKIT遺伝子の活性化状況を捉えた。
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