研究課題/領域番号 |
17K10107
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川田 潤一 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (20532831)
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研究分担者 |
伊藤 嘉規 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (20373491)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 次世代シーケンス / ウイルス感染症 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、現不明の小児重症患者から得られた血清検体を用いて、ウイルスを含む病原微生物の網羅的な検出を試みた。患者より採取された血清からDNAおよびRNAの抽出し、DNA、RNAライブラリーを作成した。DNAライブラリーはNextera XT (illumina)を、RNAライブラリーは、ScriptSeq (illumina)を用いて作成し、次世代シーケンサー(HiSeq 2500) により1検体あたり約2000万リード判読した。これまでの検討から、本手法により高感度で細菌やウイルス由来のDNAおよびRNAを検出できることが確認している。 平成30年度は、主に急性心筋炎の臨床検体を解析した。小児および成人の心筋炎17症例の血清からDNAおよびRNAライブラリーを作成し、次世代シーケンサー(HiSeq 2500) により1検体あたり約2000万リードの判読を行った。得られた結果をメタゲノム情報解析パイプライン(MePIC)により解析し、国際データベースに登録されている既知の全てのウイルスの配列の有無を検討した。パイプラインでウイルス由来のリードの存在が示唆された検体に関してはCLC workbench (CLC bio)を用いて、各ウイルス配列へのマッピングや配列相同性を確認した。17症例中、6症例からヒトパルボウイルスB19,RSウイルス、EBウイルス、アストロウイルス、ヒトペギウイルス、TTウイルス由来の配列が検出され、ウイルス血症の存在が示唆された。一部のウイルスにおいてはPCRを行い、ウイルス由来核酸の存在を確認した。また、1例からヒトペギウイルスが多量に検出されたが、現在までのところヒトペギウイルスの病原性は不明であり、さらなる検証が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 次世代シーケンサーによる臨床検体からのウイルス検出系の構築 前年度に引き続き、重症感染症患者より採取された血清から次世代シーケンサーを用いた網羅的なウイルス検出系の構築およびその検証行っている。H29年度はこの手法を用いて小児劇症肝炎患者の血清を用いて病原ウイルスの検出を試みたところ、20症例中3例から有意と考えられるウイルスが検出され、有用は手法であることが示唆された。 (2)病原ウイルス不明の心筋炎患者からのウイルス検出 平成30年度は、主に急性筋炎の臨床検体を解析した。急性心筋炎は、ウイルス感染が契機となって発症することが多いとされている一方で、病原ウイルスの特定は困難な症例が多い。そこで、小児および成人の原因不明の急性心筋炎の症例からウイルスを含む病原微生物の検出を前述の手法を用いて行った。小児12例、成人5例の計17症例を対象とした。11例は劇症型心筋炎に分類され、うち6例は死亡例であった。心筋組織の生検結果が得られている10例中、8例がリンパ球性心筋炎であり、2例が好酸球性心筋炎であった。急性期に採取された血清からDNAおよびRNAライブラリーを作成し、次世代シーケンサー(HiSeq 2500) により1検体あたり約2000万リードの判読を行った。得られた結果をメタゲノム情報解析パイプライン(MePIC)により解析し、国際データベースに登録されている既知の全てのウイルスの配列の有無を検討した。17症例中、6症例からヒトパルボウイルスB19,RSウイルス、EBウイルス、アストロウイルス、ヒトペギウイルス、TTウイルス由来の配列が検出され、ウイルス血症の存在が示唆された。また、検出されたそれらのウイルスのうち、EBウイルス、ヒトバルボウイルスB19,RSウイルス、TTウイルスおいては、PCRによってウイルス由来核酸の存在が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)病原ウイルス不明の呼吸不全患者からの病原ウイルスの網羅的検索 平成31年度は、小児急性呼吸不全患者の肺胞洗浄液からの病原ウイルスの網羅的検索を計画している。小児において、呼吸器感染症は最も高頻度にみられる感染症であるが、時に重症化し集中治療を要する。呼吸器感染症の病原微生物検索には、主に喀痰培養が用いられるが、病原微生物が特定されない例が一定数存在することに加えて、口腔内常在菌との判別が時に困難である。そのため、無菌検体である気管支肺胞洗浄液が、病原微生物の検出には適していると考えられている。また、小児の呼吸器感染症の多くはウイルス感染が原因と考えられており、次世代シーケンサーを用いることで、PCRなどの系が確立していないウイルスが検出されることが期待される。平成31年度には、これまでに蓄積されている検体を中心に、20例程度の解析を検討している。 さらに、メタゲノム解析で既知の病原ウイルスが検出されなかった症例を中心に、 de novo アセンブリ解析をCLC workbenchや、Virus TAP (国立感染症研究所)用いて行う。de novo アセンブリにより再構築された配列と、既知のウイルスとの相同性と検証することで、何らかのウイルスの存在が疑われた場合には、より多量の解析を行うことで、新規ウイルスの全塩基配列の解読を試みる。 (2)ウイルスの病原性の検証 病原ウイルスが検出された検体に関しては、次世代シーケンサーの判読リード数を増やして再解析を行うことで、ウイルスの分子疫学や病原性に関連した遺伝子の解析等を行う。また、肝生検、心筋生検などで患者の病変組織が得られている場合には、組織を用いて次世代シーケンサーによる解析を行うとともに、ウイルスの免疫染色やPCR法を行うことで、組織への感染の有無を評価し、さらに病理学的な検証を行う予定である。
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