研究課題/領域番号 |
17K10109
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋井 佳子 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (60343258)
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研究分担者 |
白川 利朗 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 教授 (70335446)
片山 高嶺 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (70346104)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 腸管免疫 / ビフィズス菌 / WT1蛋白 / 癌免疫 |
研究実績の概要 |
WT1蛋白を強制発現させた白血病株C1498をマウスに接種し、生着が確認されたday10よりWT1発現BF(以下BF420)、アンカー蛋白であるGLBPのみを発現させたBF2012、Wild type BF(WT)、PBSの内服投与を開始した。BF420群ではPBS群、BF2012、WT群と比べ有意に腫瘍増殖が抑制された。また、WT、BF2012群においてもPBS群と比較して多少の腫瘍増殖抑制効果が認められた。パイエル板ではBF420で有意に樹状細胞が活性化し、CD8陽性細胞中のIFN-γ産生細胞割合、細胞数が増加し、CD8陽性細胞中のWT1-CTL割合が増加した。ことから、BF420はパイエル板の樹状細胞に取り込まれ、WT1-CTLが産生されこれらの細胞はIFN-γを産生することが明らかになった。また腸管粘膜下パイエル板におけるB.longum105aの存在をFISH法を用いて検出した。 マウスモデルを用いてBF420の膠芽腫への有効性を検討した。マウス膠芽腫細胞株GL261にWT1蛋白を強発現させマウスに皮下接種したところWT1ペプチドワクチンと比較して有意な抗腫瘍効果を認め、GL261に対する細胞障害性を認めた。この効果の機序を検討するために末梢血中のCD8陽性T細胞中のWT1-CTL割合を経時的に測定した。ペプチドワクチンと比較してWT1-CTLの上昇が早期に見られ 長期的維持された。このことがFB420がWT1ペプチドワクチンより有効性が高い一因と考えられた。一方、皮下接種モデルの結果をうけてルシフェラーゼを導入したGL261を頭蓋内に接種する同所モデルを作成した。BF420内服群では有意なOSの延長やOS率は改善しなかったが抗CTLA-4抗体併用群で有意に生存期間、生存率が延長した。しかしながら腫瘍内浸潤WT1特異的CTLの増加が有意ではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒト臨床試験では膠芽腫においてWT1ペプチドワクチンの有効性が報告されている。このためマウス同所移植モデルにおいてBF420の有効性が期待された。しかしマウス同所移植モデルにおいてBF420の有効性が示すことができなかった。これはビフィズス菌自体にもNK細胞の活性化が早期にみられ、WTにおいてもこのNK細胞による抗腫瘍効果が認められこと、さらにGL261は増殖が早く、BF420によるWT1-CTLの誘導が腫瘍の増大に追いつかなかった可能性がある。またパイエル板においてBF420がWT1-CTLを誘導するがCD4陽性細胞が増加していたことやNK細胞への影響の検討が十分ではない。BF420がペプチドワクチンより有効性が高いことにはBF420に含まれるヘルパーペプチドによるCD4陽性細胞の増加が関与していると考えるが、どのエピトープが関連してるか、を検討できていない。またBF420によりパイエル板で活性化した樹状細胞と皮下接種のペプチドワクチンによって活性化した樹状細胞の差異を明らかにすることができていない。BF420が皮下モデルで有功であったが同所移植モデルで有効性が示せなかった一因として皮下モデルにおいて活性化された樹状細胞とBF420によって活性化される樹状細胞の性質が異なり、中枢神経系へ浸潤できない可能性も否定できない。皮下注射をおこなうペプチドワクチンと異なりBF420では、BF420によって活性化される樹状細胞をパイエル板で検出、その機能を明らかにすることが可能であるがこの有利な点を利用できていない。
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今後の研究の推進方策 |
ビフィズス菌自体のもつ自然免疫を活性化させうる腫瘍免疫への影響について、検討が十分ではない。自然免疫のひとつとしてビフィズス菌自体によるNK細胞に対する影響をHLA非発現細胞をもちいてNK活性を測定する。このほかビフィズス菌投与マウスにおけるパイエル板のマクロファージ等の活性化状態を検討することを予定している。また皮下腫瘍接種マウスモデルにおいてNK細胞を抑制する抗アシアロGM1を投与しBF420による抗腫瘍効果への影響を検討する。またCD4陽性細胞に対する抗体をハイブリドーマを作成してマウスに投与し、CD4陽性細胞が抗腫瘍効果に与える影響を検討する。 GL261同所移植モデルに対するBF420の有効性を示すには腫瘍細胞の増殖の低下ないしはBF420内服開始の時期を考慮する必要がある。すでにGL261を頭蓋内に接種し、day28に摘出した腫瘍を用いておこなった検討では期待されるWT1-CTLは2~3%程度しか検出しえなかった。このため頭蓋内への接種腫瘍細胞数を減少させる、BF420を内服するタイミングを腫瘍接種前から開始する、などを計画し、より抗腫瘍効果が発揮されうる環境を構築する。さらに脳腫瘍血管の正常化をおこなうとされるLysophosphatidic Acid4, LPA4のagonistの投与を併用することを予定している。BF420とは異なるWT1遺伝子部位を導入し発現させるコンストラクトを作成し、抗腫瘍効果を検討する。BF420はヒト末梢血より分離した単核球に投与してもWT1-CTLを誘導することが可能である。ヒトへの臨床応用のためにBF420をヒト単核球に投与しWT1-CTLを誘導する。このWT1-CTLを用いてヒトH3.3-K27M をもつヒトびまん性正中グリオーマ細胞株にHLA2402を導入し本細胞株に対するキリングアッセイをおこなうことも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス膠芽腫同所移植モデルマウスを用いた研究で、皮下接種モデルで認められた有効性が認められなかった。この原因を究明し有効性を示しうるような実験モデルを構築する必要があった。ひとつはBF420とは異なるWT1遺伝子領域を発現させたビフィズス菌を作成することである。このあらたなWT1発現ビフィズス菌による抗腫瘍効果をGL261同種移植において検討する。また腫瘍血管を正常化するLPA4アゴニストを併用して腫瘍内へのリンパ球浸潤を高めることを計画している。一方、ビフィズス菌自体のもつ抗腫瘍効果を発現する機能解析として自然免疫への影響に着目しNK細胞、単球の活性化状況をフローサイトメトリー法を用いた細胞内サイトカイン産生やELISpotアッセイによって明らかにする予定である。あらたなビフィズス菌の作成、およびそれによる抗腫瘍効果の発現、免疫モニタリング、LPA4併用マウス実験に必要になったため。
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