研究課題/領域番号 |
17K10119
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 晶論 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (60423795)
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研究分担者 |
橋本 浩一 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (50322342)
細矢 光亮 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80192318)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インフルエンザ / ノイラミニダーゼ阻害薬 / プロテアーゼ阻害薬 |
研究実績の概要 |
MDCK細胞を使った前年度の基礎実験と同様に、前年度に購入したヒト気管支上皮細胞を用いて、H1亜型インフルエンザウイルスの野生株(以下WT)とオセルタミビルとペラミビルに感受性が低下したH275Y変異株(以下H275Y変異株)を感染させ、段階希釈した各NA阻害薬(NAI)(オセルタミビルとペラミビル)とプロテアーゼ阻害薬(PI)とともに72時間培養し、各薬剤単独およびPIとNAIとの併用効果について、リアルタイムPCR法にて培養上清中のウイルス量を定量し、コントロールに比較してウイルス産生量を半減できる薬剤濃度(EC50)を検討した。 1.WTに対するオセルタミビルとペラミビルのEC50は、それぞれ、43.0 nMと8.5 nM、PIであるCamostat Mesilate(以下CM)とNafamostat Mesilate(以下NM)のEC50はそれぞれ5.8 μMと0.8 μMであった。 2.H275Y変異株に対するオセルタミビルとペラミビルのEC50は、それぞれ、> 10,000 nMと2,860 nM、CM とNMのEC50はそれぞれ4.3 μMと2.2 μMであった。 3.WTとH275Y変異株について、各NAIと各PIを併用したところ高い相乗効果を認めた。特に、ヒトにおいて静注製剤であるペラミビルとNMとの併用で最も高い相乗効果が認められた。なお、各NAIと各PIについて、それぞれ最高濃度を10,000 nMと1,000 μMで細胞毒性を評価したが、細胞毒性は認められなかった。 これらの結果は前年度MDCK細胞を用いた実験の結果とほぼ同様であり、in vitroではあるが、NAIとPIとの併用療法がヒトでも有効で、且つ毒性が低いことが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度、ヒト気管支上皮細胞を用いてウイルスを感染させた際、外来性にプロテアーゼを添加するとウイルス量は指数関数的に増加した。一方、外来性のプロテアーゼを添加せずとも経時的にウイルス量が増加することも確認できたこれは、市販されている不死化ヒト気管支上皮細胞がインフルエンザウイルスの感染実験に有用であることが確認され、且つ、ウイルスが増速するためのプロテアーゼをこのヒト気管支上皮細胞が内在していることを示唆するものであった。 このヒト気管支上皮細胞を用いて、NAIとPIとの併用による抗ウイルス効果を確認したところ、相乗効果と低い細胞毒性が確認された。また、ウイルス感染後PI含有培養液で培養し、培養72~96時間後に回収したウイルスのHA開裂状況を確認したところ、ほとんどが未開裂ウイルスである、PIがヒト気管支上皮細胞に存在するプロテアーゼの作用を阻害していることが考えられる。 そこで、現在、ウイルスを感染させた細胞中のHtrA2の発現を確認しているが、免疫染色や蛋白定量では確認できていない。なお、PI含有培養液でヒト気管支上皮細胞を培養した場合、PI非含有培養液で培養した場合と比較して、細胞死が減少していることが確認されておりアポトーシスを抑制していることが考えられるが、ウイルス感染後の細胞死の経路について検討するにはいたらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト気管支上皮細胞を用いた実験ではウイルスが増殖することは確認できたが、HtrA2が関与しているかどうかまでは確認できていない。そこで、今後は、HtrA2がウイルス増殖に関与するかどうかを集中的に検討するため、大きなフラスコに単層培養したヒト気管支上皮細胞を用い、細胞数を増やすことでHtrrA2の回収を試みる。さらに、①外因性に活性のあるHtrA2を添加することでウイルスの増殖に影響を与えるかどうか、②ヒト気管支上皮細胞をウイルスに感染させ、その後HtrA2阻害薬含有培養液で培養しウイルスの増殖を抑制できるか、③人工的に作られた非開裂HA蛋白を用いて、これにHtrA2を反応させることでHAが開裂するかどうか、以上についても確認する。 さらに時間的に余裕がある場合には、マウスを用いてNAIとPIの併用療法についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト気管支上皮細胞を用いた実験では、より詳細な有効濃度を決定するために使用する薬剤の濃度を細かく設定した。さらに各薬剤濃度については誤差を少なくするため3つのサンプルを用いていたが、これによりウイルス量定量のためのサンプルが予想以上に多くなり、ウイルス遺伝子の抽出と定量に時間を要したことで、実験に遅れが生じた結果、購入する物品も少なくなった。次年度は、多くのサンプル解析、バイオマーカー測定のための試薬を多く購入予定である。 また、学会出席についても科研費から支出することなく参加したため、学会旅費に余裕ができた。次年度は、国際学会での演題発表を予定しているため、科研費から支出予定である。
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