研究課題
急性リンパ性白血病(ALL)は最も頻度の高い小児がんである。ALLの治療成績の改善はめざましく、約80%に長期生存が期待できるが、化学療法に伴う治療毒性は大きな問題である。近年のゲノム薬理学の進歩により、治療毒性に関わる遺伝子変異が同定されてきたが、人種による差異が大きい。本研究の第1の目的は、欧米でこれまで同定された遺伝子変異が我が国のALL患児において意義を有するかどうかを明らかにすることである。第2の目的は、全ゲノムシーケンス解析を行い、探索的に日本人ALL患児における治療毒性と密接に関連する遺伝子多型(変異)を発見することである。79人の急性リンパ性白血病の患者を対象に大量メソトレキサート(MTX)療法におけるMTXのクリアランスと関連する遺伝子多型としてSLCO1B1、SLC19A1、ABCB1、ABCC2、ABCG2、MTHFRの5種類の遺伝子を検討した。その結果、MTHFRの遺伝子多型とMTXのクリアランスとの間に相関がみられた。6-メルカプトプリン(6-MP)の血液毒性とNUDT15の遺伝子多型についての研究では、ホモ変異型とコンパウンドヘテロ変異型を有する患者に対する6-MPの至適投与量の決定が必要である。これらの遺伝子多型を有する患者33人について、実際の投与量と毒性などの臨床情報を調査しているところである。急性リンパ性白血病治療中にアスパラギナーゼによる重症膵炎を発症した17人の患者にみられる遺伝子多型を網羅的に検討するプロジェクトが計画され、実際に患者検体が収集された。現在遺伝子解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
小児の急性リンパ性白血病治療においては薬剤による毒性により治療変更を強いられることが起こりうる。大量MTX療法施行時には血中濃度の遷延が大きな問題である。ついで維持療法期間に1年以上にわたって毎日投与される6-MPについてはNUDT15の遺伝子多型が大きな意味を有することが明らかになったが、実際にはNUST15の何種類の遺伝子多型(ディプロタイプ)があるのか、またリスク多型があった場合の6-MPの至適投与量は決定していない。最後に、アスパラギナーゼによる有害事象は重篤で、重症膵炎が起こると治療が中断され、またアナフィラキシーが起こると同薬剤の続投が不可能となり、予後を悪化させる要因となる。平成29年度は、MTX大量療法時のクリアランスに関連する遺伝子多型としてMTHFRの意義を明らかにした。またNUDT15のリスクアリルを有する患者の臨床情報の収集を進めている。最後に重症膵炎患者のリクルートが終了し、DNAの解析を開始した。
平成30年度以後は当初の計画通りの研究を遂行する予定である。聖路加国際病院および東京小児がん研究グループ(TCCSG)で過去に治療が行われた患者のうち、有害事象を発症した患者を対象とする。予想される症例数は30-50である。患者の生殖細胞系列検体(末梢血または口腔粘膜等)からDNAを抽出し、全ゲノムシーケンス解析を行い、患者にみられた有害事象と統計的に有意に相関する候補遺伝子とを探索する。また、治療毒性のある患者の多型頻度が1000 Genomesデータベース等の日本人における多型頻度と大きく乖離する遺伝子多型についても抽出する。毒性の発現した対象患者で候補となった遺伝子多型を新たなValidation cohortでも関連性の高い遺伝子多型であるかを確認する。この計画遂行について現在、特段の課題はないと考えている。
(理由)遺伝子検査の結果の疫学的解釈が遅延した為、次年度への繰り越しが生じたが、研究はほぼ予定通りに進んでいる。(使用計画)次年度にも臨床情報の収集および遺伝子解析を継続していく予定である。
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