研究課題
3週齢の幼若家兎を用いて下大動静脈短絡による容量負荷心肥大モデル(先天性心疾患モデル動物)あるいはShamマウスを作製した。2週間後の心エコーで短絡の存在、右室肥大、下大静脈径の拡張にてモデルが適正に作成されていることを確認した。working heart perfusionによる心筋代謝の測定では先天性心疾患モデルではSham群と比較し脂肪酸代謝が低下し全体のATP産生量が有意に低値であった。心筋組織をホモジネートとし、脂肪酸β酸化酵素(βHAD, LCAD)のアセチル化をアセチル化リジン抗体による免疫沈降と免疫ブロットにて確認したところ、先天性心疾患モデルで有意にアセチル化が低下しており、このアセチル化タンパクの発現量は心筋脂肪酸代謝(パルミチン酸代謝率)および脂肪酸β酸化酵素活性と有意な正の相関を示した。また、ミトコンドリアアセチル基転移酵素(GCN5L1)の蛋白発現が先天性心疾患モデルでShamと比較し有意に低下し、脱アセチル化酵素(SIRT3)の発現は2群間で有意差はなかった。以上の結果から先天性心疾患モデルの心筋ではGCN5L1の低下を介したアセチル化修飾の減弱が生じ、これによって脂肪酸β酸化酵素活性ならびに脂肪酸代謝率が減弱し、ATP産生量の欠乏から心不全へと陥ることが明らかとなった。次にGCN5L1によるアセチル化修飾、心肥大への影響を直接的に検討するために、ラット心筋細胞(H9C2 cell)を用いて、GCN5L1のノックダウンを行った。GCN5L1のノックダウンによりLCAD, β-HADのアセチル化修飾は減弱し、心筋細胞は有意に肥大した。以上から、in vitroの系からもin vivoと同様にGCN5L1を介したアセチル化修飾が左室肥大の抑制に極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
先天性心疾患モデルの作製に成功し、かつ先天性心疾患モデルにおける心筋代謝基質変化が観察できている。さらに、仮説通り先天性心疾患モデルではアセチル化修飾の減弱によって脂肪酸β酸化酵素活性や脂肪酸代謝率が低下し、ATP産生量の低下に寄与していた。着目すべきはラット心筋細胞(H9C2 cells)においても、アセチル基転移酵素のノックダウンでアセチル化修飾の減弱と有意な心筋細胞肥大が観察されたことである。これらはin vivoの結果をさらに支持するものであり、仮説が正しいことが証明された。
先天性心疾患動物モデル、ラット培養心筋細胞いずれの系においてもアセチル化修飾変化と心筋脂肪酸代謝変化が確認されたため、次に先天性心疾患患者からの心筋サンプルで同様の変化が観察できるか、臨床研究にて明らかにする。具体的には心内修復術が必要な先天性心疾患患者を右室肥大の有無と年齢(生後101-200日、201日以上)で4群に分け、術中に採取した心筋組織を用いて、脂肪酸β酸化酵素、アセチル化修飾された脂肪酸酸化酵素、酵素活性を測定し比較検討する。
仮説通りに実験が進んだたため、幼若ラットを当初想定していたより少ない数の購入となり、その結果、飼育費を含む維持費を削減できた。来年度は主に培養細胞を用いた遺伝子改変実験、ならびにヒト心筋検体を用いた抗アセチル化抗体による免疫沈降、免疫ブロットによるアセチル化タンパクと臨床予後との関連を検討するが、特に免疫沈降では多量のアセチル化抗体を要するため、その購入へ費用を一部充てる。また、現在の研究経過では予定より早期に論文発表できる可能性があり、投稿時にかかる印刷費用、投稿料へ一部補填する。
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