研究課題/領域番号 |
17K10137
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福島 新 北海道大学, 大学病院, 助教 (40706553)
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研究分担者 |
絹川 真太郎 北海道大学, 医学研究院, 講師 (60399871)
高田 真吾 北海道大学, 医学研究院, 博士研究員 (60722329)
横田 卓 北海道大学, 大学病院, 特任助教 (90374321)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アセチル化修飾 / 先天性心疾患 / 心筋脂肪酸代謝 |
研究実績の概要 |
共同研究施設であるカナダ・アルバータ大学より2010 年から2016 年にかけて外科的修復術を受けた145 名の先天性心疾患患者の非特定化された臨床データの提供を受けた。145名の先天性心疾患患者を病的心肥大合併患者(40名)、非合併患者 (44名)に分け、さらにそれぞれ日齢 (生後21-100日と100-200日)に分類した。日齢によってサンプルを分けた理由は、幼若家兎心筋において生後直後からアセチル化修飾が変化することを既に見出していたからである(Fukushima A, et al. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2016;311:H347-63.)。これらの心筋組織蛋白をホモジネートし、脂肪酸β酸化酵素のアセチル化を抗アセチル化リジン抗体による免疫沈降と免疫ブロットにて確認した。結果、心肥大非合併先天性心疾患患者では、心筋組織のアセチル化は日齢とともに増加したが、病的心肥大を合併した先天性心疾患患者ではこの日齢に伴うアセチル化の増加は減弱していた。特に、減弱したアセチル化蛋白として脂肪酸β酸化酵素(長鎖アシルCoA脱水素酵素、3-ヒドロキシルアシルCoA脱水素酵素)が同定され、病的心肥大合併例ではβ酸化酵素のアセチル化減弱とともにβ酸化酵素の活性化低下が確認された。さらに、これらのβ酸化酵素のアセチル化減弱の原因として、病的心肥大合併例ではアセチル化転移酵素であるGcn5l1の発現低下がを認めており、実際にin vitroの系におけるGcn5l1のノックダウン実験では、脂肪酸β酸化酵素のアセチル化と活性低下、脂肪酸代謝率の低下が実証された。以上の結果は昨年度報告した先天性心疾患モデル動物と同様であり、先天性心疾患における病的心肥大にはアセチル化の低下に起因する心筋脂肪酸代謝の成熟化遅延が関与することが臨床検体を用いて確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先天性心疾患の病的心肥大では心筋代謝酵素のアセチル化減弱が関与するという仮説と一致した結果を、臨床サンプルを用いた検討で得られた。この結果は昨年度報告した先天性心疾患モデルにおける動物実験のデータとほぼ同様であり、仮説がより確からしい科学的根拠によって検証されたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
心筋脂肪酸代謝のアセチル化修飾変化については、先天性心疾患動物モデル、ラット培養心筋細胞、先天性心疾患患者の臨床検体、いずれの系においても確認できた。今後は脂肪酸代謝酵素活性が減弱した結果、その下流である脂肪細胞特異的トリグリセリドリパーゼ(ATGL)やトリアシルグリセロール(TG)の合成を触媒するDGAT2がどのように変化するか検討する。また、心筋の糖代謝や解糖系に関連する酵素については十分検討してないため、今後、主に臨床検体を用いて解糖系酵素である低酸素誘導性因子(hypoxia-inducible factor:HIF)や糖代謝酵素であるピルビン酸脱水素酵素 (PDH)の翻訳後修飾変化について検討する。
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