研究課題
前年度と引き続き共同研究機関であるカナダ・アルバータ大学より提供された外科的修復術を受けた145 名の先天性心疾患患者の臨床データを用いて解析を進めた。145名の先天性心疾患患者を病的心肥大合併患者(40名)、非合併患者 (44名)に分けそれぞれ日齢 (生後21-100日と100-200日)に分類した。前年度の結果では、肥大心では非肥大心と比較し、心筋組織の脂肪酸β酸化酵素のアセチル化の日齢に伴う増加が減弱し、脂肪酸代謝酵素の活性低下と関連していた。今年度の検討では、セラミドのde novo合成の律速酵素であるセリンパルミトイル転移酵素(SPT-1,2)は肥大心で日齢とともに増加したが、非肥大心でその現象は認めなかった。このことは肥大心では脂肪酸代謝の低下だけでなく、心筋細胞内のセラミドの蓄積によるインスリン抵抗性や細胞内アポトーシスが関与する可能性が示唆された。また、解糖系酵素である低酸素誘導性因子(HIF-1)や糖代謝酵素であるピルビン酸脱水素酵素 (PDH)の発現変化を検討したところ、HIF-1の発現は肥大心のみ日齢とともに有意に増加し、肥大心における解糖系代謝への移行が示唆された。一方、PDHのリン酸化 (不活性化)は、肥大心でのみ増加しており、肥大心において解糖系と糖代謝のuncouplingが生じることが示唆された。さらに、ラット幼若培養心筋細胞(H9c2)を用いたin vitroの系で、フェニレフリン投与による肥大刺激の有無の下、PDHリン酸化酵素(PDK4)の阻害薬を投与したところ、肥大心筋細胞において亢進した解糖系代謝がPDK4阻害薬で有意に抑制されることを確認した。以上から、先天性心疾患の病的心肥大には、アセチル化を介した脂肪酸β酸化酵素の活性低下だけでなく、セラミドの蓄積や、解糖系代謝の亢進と糖代謝の減弱が深く関与していることが明らかとなった。
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Life Sciences
巻: 250 ページ: 117593, 117595
10.1016/j.lfs.2020.117593
Journal of Cardiac Failure
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