研究実績の概要 |
ネフローゼ症候群患者6例の腎生検組織から糸球体を単離しRNA sequencing解析をおこない、これまでに解析した3例と腎組織全体でのRNA sequencing解析5例と併せてデータの解析をおこなった。 腎組織全体でのRNA sequencing解析5例の組織型は3例が微小変化群(MGA)で2例が巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)であった。主成分分析ではMGAの2例に類似性がみられたが他はばらつきが大きかった。ネフローゼ発症に関わる免疫分子の解析で、CD80関連分子の発現解析では、ネフローゼ発症時にCD80の発現が増加し寛解直前ではCD80の発現を認めずCTLA4の発現が増加しており、既報と一致していた。Th1/Th2関連分子の発現解析では、Th1関連サイトカインがMCDのネフローゼ状態で増加していたが、寛解直前では低下しており、Th2関連サイトカインはネフローゼ状態で発現が多かった。FSGSの発症機序に関連する経路としてアポトーシス関連経路の発現解析をおこなったところ、FSGSではFAIM2, FAIM3などの抗アポトーシス分子の発現が低下していた。 糸球体単離によるRNA sequencing解析9例では7例がMGA、2例がFSGSであった。いずれの検体でも腎組織全体の解析でみられた免疫関連分子の発現変化はみられず、主に細胞の運動性や細胞の分化・発達、血管系に関連した経路で発現変化がみられた。この9例をネフローゼの状態(ネフローゼ中、寛解中、寛解直前、再発直前)に分類し解析したところ、主成分分析、発現変動解析、Enriched cluster解析のいずれでもネフローゼの状態によって発現RNAに類似性がみられた。 以上から、ネフローゼ発症に関わる免疫分子の発現は糸球体内でなく外来性のものであること、糸球体ではネフローゼの状態変化によって発現遺伝子が変化することが推察された。
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