研究課題/領域番号 |
17K10141
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
馬場 志郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (60432382)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | デュシェンヌ型筋ジストロフィー / iPS細胞 / 細胞内カルシウム濃度 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
近年デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の死亡原因のトップが呼吸不全から心不全に移行したが、DMDにおける心不全の発症機序は未だ不明な点が多く、治療法の開発は困難であった。過去報告から発症機序の一つとしてアポトーシスの関与が示唆されている。これに加えて、昨年度までの我々のDMD-iPS細胞、mdxマウスを用いた研究でオートファジーの関与が強く示された。実際、オートファジーを抑制するクロロキン投与前後で、DMD-iPS細胞から分化した心筋細胞、mdxマウスの心筋細胞の機能解析を行ったところ、細胞活性の改善や心機能の改善を認めた。次にDMD患者の心筋細胞がアポトーシスやオートファジーを有意に起こす原因を探るため、細胞内のカルシウム代謝に注目した。先行報告では、mdxマウスの骨格筋細胞内のカルシウム濃度が上昇しており、筋障害の原因の一つになっていると考えられている。その知見から心筋内のカルシウム濃度をindo-1を用いて測定した。DMD-iPS細胞から分化した心筋細胞内カルシウム濃度はコントロールiPS細胞から分化した心筋細胞に比べて有意に高く、常にカルシウム代謝ストレスがかかっていることが判明した。これらDMD-iPS細胞とコントロールiPS細胞から分化した心筋細胞を伸展可能なストレッチチャンバーで伸展負荷を加えたところ、DMD-iPS細胞由来心筋細胞で細胞内カルシウム濃度が有意に上昇したのに比べて、コントロールiPS細胞由来心筋細胞では伸展刺激によっても細胞内カルシウム濃度は変化しなかった。このことから、安静状態のDMD-iPS細胞由来心筋細胞において高い細胞内カルシウム濃度は、筋肉の伸展収縮刺激において、より高値となり心筋障害を起こしやすい可能性が高いと示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DMD-iPS細胞から分化した心筋細胞において細胞内カルシウム濃度が有意に高く細胞死が高頻度で起こっている事実が判明した。その細胞死は過去に論文化されたアポトーシスというよりはオートファジーが起こっている事実が判明した。これら研究結果はmdxマウスを用いたin vivo実験でも証明されており、詳細な実験を追加中である。以上から、実験計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前述するように細胞内カルシウム濃度上昇がDMD-iPS細胞由来心筋細胞で起こっていることが証明され、またDMD-iPS細胞由来心筋細胞の細胞死(主にオートファジー)が起こっていることが判明した。この細胞死が最終的に心筋線維化と心筋細胞数の減少を起こし、DMD患者の末期心不全である拡張型心筋症を起こすと考えられる。このトリガーとなるのが細胞内カルシウム濃度上昇である可能性が考えられ、カルシウム濃度と細胞死の関連について研究していくことを予定している。DMD-iPS細胞由来心筋細胞、コントロールiPS細胞由来心筋細胞を用いて、L型カルシウムチャネル、小胞体カルシウムチャネル、ナトリウム/カルシウム交換系などのブロッカーなどを用いる、またはキレート剤などで細胞内カルシウム濃度をコントロールすることで細胞死の頻度が変化するか評価する。細胞内カルシウム濃度と心筋細胞の細胞死の間に関連性が認められるのであれば、細胞内カルシウム代謝変化から細胞死が誘導される細胞内シグナル経路を明らかにする。DMD-iPS細胞由来心筋細胞やmdxマウス心筋細胞に対してクロロキンの投与することで細胞死の一種であるオートファジーを抑制できることがDMD-iPS細胞由来心筋細胞やmdxマウスの心筋細胞での実験で判明している。細胞内シグナル経路の解析により、さらにターゲットを絞った細胞死抑制に対する薬剤の開発を行うことを今後の研究方針とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究計画は概ね良好であったが、論文作成のために2018年の年度末に行う次の実験を2019年年度始めの開始となったためである。使用計画は、前年繰越分は物品費として使用予定である。 使用計画は、細胞内シグナル経路の研究のために試薬、細胞内カルシウム調整のための試薬、細胞内用試薬や免疫染色などの試薬を購入する予定である。またmdxマウスを用いた実験を行う予定であり、マウス購入費、維持費やマウス実験試薬も追加購入予定である。
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