本研究の最終目標は糸球体細胞内でのWntシグナルに着目し、レニン・アンジオテンシン系(renin-angiotensinn system:RAS)の新しい経路である(プロ)レニン受容体((pro)renin receptor:(P)RR)を介したこれまでにない糸球体障害の病態機序解明や新しい治療法を開発することである。レニンとその前駆体プロレニンに対する受容体である(P)RRは近年、従来のRASにはみられなかった新しい機能が着目されている。またWntは慢性腎臓病の進展において着目されている分子であり、糸球体病変においては不明な点が多い。そのために進行性腎炎モデルにおけるWntシグナルや(P)RRの発現変化や培養糸球体細胞でのWntシグナルと(P)RRによる細胞動態を明らかにする。まずラット進行性メサンギウム増殖性腎炎モデルを作成してアンジオテンシンII受容体拮抗薬(angiotensin II receptor blocker:ARB)を投与して腎炎を抑制し、それぞれの群における(P)RRとWntシグナルの発現を評価した。その結果、腎炎ラットでは糸球体内の(P)RRとWnt4の発現が増強しており、ARBによって腎炎を抑制したラットではそれらの発現が低下していた。そこでラットから腎臓を摘出し、単離糸球体からメサンギウム細胞を単離培養しWnt4による刺激を与えて腎炎進展に関与するサイトカインの発現を検討してみた。その結果、培養メサンギウム細胞はWnt4刺激によりマクロファージ遊走因子であるMCP1遺伝子の発現を誘導していることが判明した。さらに培養メサンギウム細胞は(プロ)レニンによる刺激でMCP1遺伝子の発現を上昇させるが、 (P)RRやWnt4遺伝子をノックダウンすると抑制されるこが判明した。さらにβカテニンの阻害薬であるXAV939を投与しても抑制されていた。
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