川崎病の病因、病態解明を目指して、前年度に引き続き川崎病血管炎マウスモデルを用いてその病態機序についてP-selectinを始めとするいくつかの分子に着目した実験病理学的研究を行った。P-selectin(CD62P)中和抗体による血管炎抑制を試みる上で、その病態モデルとして川崎病マウスモデルはこれまで使用してきたCandida albicansによるDBA/2マウス血管炎モデルの他に、乳酸菌抽出物(LCWE)を起炎物質とするマウス血管炎モデル(C57BL/6JおよびDBA/2)を作成した。発症率は本モデル作成に汎用されるC57BL/6で約70%で100%発症するCAWSモデルよりも低く、CAWSモデルと比べて炎症は部域(心基部~冠動脈)や程度には個体差が大きく。興味深いことにCAWS刺激では最も高い感受性を示すDBA/2マウスではLCWE刺激では発症率は25%で発症個体の炎症も軽度にとどまっていた。CAWSモデルではマウス系統間で感受性に大きな差異があることが知られているが、今回、LCWEモデルでもまた発症機序には遺伝的背景(マウス系統)が影響することが示唆された。以上の点からLCWE血管炎モデルは本研究には適さないと判断し、CAWS血管炎モデルを使用してp=selectin(CD62P)中和抗体投与による炎症抑制を試みた。投与群と対照群について心基部について組織学的な検討を行った。抗体量が限られるため、十分な匹数のマウスでの検討結果ではないが、炎症抑制効果は認められなかった。投与時期および投与量の再検討が必要と考えられる。炎症部位にP-selectinが発現していることは前年度までに確認しており、同分子を標的とすること自体は変わらないが、抗体の量的な面や費用面で中和抗体を用いた実験は困難な点が多いため、今後は阻害ペプチド等を用いた方法を計画する必要があると考えられる。
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