肺動脈平滑筋を特異的に標識するために、Tbx4の肺間葉系特異的エンハンサーのコア領域にレポーター遺伝子であるLacZ遺伝子を連結させたトランスジェニックマウスを作製したが、本マウスのLacZの発現は肺動脈には認められなかった。一方、当研究室で独自に開発してきた2型イノシトール三リン酸受容体(IP3R2)の翻訳開始領域にLacZ遺伝子を挿入したマウス(IP3R2-LacZマウス)では、IP3R2-LacZが肺動脈平滑筋に発現するという結果を得、IP3R2-LacZマウスを用いて目的の遂行を試みることとした。IP3R2-LacZは、肺動脈の発生に伴い、胎生初期から生後にいたるまで、肺動脈主幹部から末梢肺動脈の肺動脈平滑筋に発現し、whole-mountでも切片でも観察が可能であった。これにより、IP3R2-LacZ陽性の肺動脈平滑筋の発生様式は中枢から末梢に連続的に進展すること、さらに、IP3R2-LacZの大動脈における発現様式から、IP3R2-LacZ陽性領域は二次心臓領域を含むことを報告した。 特発性肺動脈性肺高血圧症の患者で変異の報告があるTbx4の肺動脈平滑筋細胞における役割を解明するために、出生直前のマウス胎仔から採取した肺動脈平滑筋細胞の初代培養においてTbx4をノックダウンしたところ細胞増殖能が有意に低下した。さらにTbx4の役割を肺組織レベルで検討するために、胎生11日~13日の肺器官培養に対して、モルフォリノアンチセンスオリゴによるTbx4のノックダウンを行う実験系を確立した。モルフォリノアンチセンスオリゴはTbx4蛋白を約4割に低下させ、Tbx4の発現低下の影響を肺器官レベルで観察可能となった。
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