令和元年度には、本研究課題のうち、酸化ストレスの局在を同定する目的で、腎組織の抗4HNE抗体を用いた免疫染色を行った。また、酸化ストレスマーカーであるdityrosineを血漿中で測定し、mitoTEMPO投与群で低値を示す傾向を確認した。 本研究は、微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の発症要因として、ミトコンドリアに限局した酸化ストレスの影響を明らかとすることを目的とした。そこで、MCNSモデルラットとして確立されたピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)腎症ラットに、ミトコンドリア特異的抗酸化剤であるmitoTEMPOを投与し、その効果を確認した。 この結果、PAN単独投与群(P群)に比し、PAN+mitoTEMPO投与群(PT群)で、一日尿蛋白量と各種酸化ストレスマーカーは有意に減少した。抗4HNE抗体を用いた腎組織の免疫組織染色では、P群に比しPT群でポドサイトにおける酸化ストレスの軽減が示唆された。ミトコンドリア障害に関しては、糸球体ポドサイト内のミトコンドリアを電子顕微鏡下で評価した。P群に比しPT群で、ミトコンドリア障害スコアは低値であり、ミトコンドリア障害が軽減していることが明らかとなった。 以上より、本研究はMCNSの発症要因として、ミトコンドリア障害が大きく関与していることを明らかとし、ミトコンドリア保護薬の治療薬としての可能性を示した。また、多数のミトコンドリアの障害をスコア化し、その平均値を用いることにより、従来困難であった電子顕微鏡観察によるミトコンドリア障害の評価が可能となった。 本研究結果は、ミトコンドリア保護という観点によるMCNS治療法の開発へと発展する、重要な知見である。さらに、小児の腎生検においてルーチン検査である電子顕微鏡観察により、ミトコンドリア保護薬の適応を検討することが可能となる。これらの点に本研究成果の意義がある。
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