研究課題/領域番号 |
17K10176
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田崎 加奈子 (齋藤加奈子) 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (50746906)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大脳発生 / 子宮内ライブ観察 / ニューロン移動 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒトの先天性脳疾 患の病態解明および将来的な臨床診断ないし胎児治療の基盤となる知見を得ることを目指していが、哺乳類動物胎仔に対する「細胞」を単位とする画像取得をリアルタイムで行なうことはほとんど(後述の希少例を除いて)行なわれていない。この、哺乳類における「観察力」の現状は、「非哺乳類」において分解能・解像度が「単一細胞」の形態、挙動にまで充分に達している状況と比べると、大きく遅れている。 これまで、哺乳類胎仔の器官に対して動的な現象(細胞運動など)の観察を果たすには、当該器官を個体から取り出し三次元培養に供するという方法をとる必要があった。こうして培養下に得られた哺乳類細胞の形態や動態についての情報を「ほぼ生体内の状況を再現するであろう」と解釈・推察してきた、というのがこれまでの取り組み方であった。本提案者も、これまでにマウスの大脳および網膜の発生過程に対して、スライス培養やその他の解析法を組み合わせて理解を深めてきた。しかし、「取り出し」たうえでの解析をいくら積み上げても、先天性疾患の病態を「母体-胎児」関係に注目して問うことはできない。 そこで、本研究は、胎児医学・先天異常学の進歩のために、「取り出し」によらない新規なライブ観察・解析の方法を確立することが重要であるとの着想にもとづいて企画し、主に、マ ウス大脳発生過程において申請者らが新たに見いだしたニューロン動態(接線方向移動)に 注目する。 従来は培養系でしか解析し得なかった動的現象を、新しい「母胎連関を維持したまま での胎仔脳内細胞観察」システムにより、生体内で三次元的に把握したうえで、循環・呼吸など 母体要因の胎内ニューロン動態に対する影響をリアルタイムに捉えるとともに、ニューロン移動 の分子機構を解明する。胎児医学・先天異常学に新しい方法論と視点を提供できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二光子顕微鏡は、深部観察能力に優れており、神経科学(成体脳のニューロン)、免疫学、その他の諸領域の細胞挙動のライブ把握に威力を発揮している。本研究では、二光子顕微鏡を用いた「子宮内胎仔の脳原基のなかを接線方向に動くニューロンのライブ観察」の確立を主な目標とし、マウスに対して報告がある胎生中後期よりはやい胎生早期(E11~E13)に対して達成を目指している。 これまでの胎生中期での子宮内観察に成功している条件にもとづきE11~E12に適する方法を見いだしている。これまでに、複数回の「手術、胎仔保持」という操作を経て、母体および胎仔の生存を得ることができているので、「同じ箇所、同じ細胞の追跡的観察が達成できる」ということに力を注いでいる。具体的には、麻酔下に開腹した母体からひっぱり出した子宮を手製の支持器に装着し、胎仔頭部が対物レンズの直下に来るように調整している。ニューロンの蛍光標識は、GFP等の蛍光タンパクを発現するためのプラスミドベクターを胎仔脳に発現させるよう遺伝子導入(子宮内電気穿孔法による)をしておく。しかし、まだ再現性に関して不安定な事があるため、高確立な再現性を目指している。 さらに、本研究の主対象と位置づける 新規「接線方向ニューロン移動」の実体、分子機構を明らかにすることに関してライブ観察によって取得した動画をもとにして、動きの方向性、速度、集団的連動性などについて定量的に把握している。次いで、「動き」のしくみについて、ニューロンにとっての外的因子(誘引因子、接着因子)および内的因子(small GTPaseなどの細胞内制御分子)について、子宮内電気穿孔法によってドミナントネガティブ型の遺伝子強制発現やノックダウンを行い、貢献を明らかしており、さらに複数の重要分子候補が見えてきているのでそれらを調べている。
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今後の研究の推進方策 |
二光子顕微鏡を用いた「子宮内胎仔の脳原基のなかを接線方向に動くニューロンのライブ観察」を確実なものにし、さらに、母体に対して循環、呼吸、代謝など、さまざまな観点から、化学的(薬剤等)および物理的な(循環・ 呼吸に対する負荷など)な刺激を加え、ライブ観察下にある胎仔器官(主には脳原基)の中の細胞の挙動に何らかの変調が認められるか観察する。また、「胎生期複数回(追跡的)観察」の延長として、胎生期観察と生後観察とを組み合わせる。まずは正常な細胞挙動の観察を行なう。 次いで、同じく昨年度実践した「遺伝子操作実験(ニューロン移動のしくみを問うための)」 の結果(一次病変としての移動障害など)をいちど胎生期に確認した後に、生後、再び、最終的 な病的帰結(二次的病変などを含む)を明らかにする目的で、「相当部位」の観察を行なう。これによって、「胎生期のどの場所にどのような規模の病変が生じた場合に、やがて生後の脳がどのような病変を持つことになるのか」を追跡的に明らかにできる。これまでなかった先天疾患の病態モデルの確立を目指す。 さらに、新規「接線方向ニューロン移動」が、胎生早期に誕生する一群の「早生まれ」ニューロンによる事象であることが分かってきている。そこで、「意義」に関して、まず、胎生期における解析を行なう。「早生まれ」ニューロンの「接線方向(横広がり)移動」を減じる、または消失させる実験を行ない、胎生後期までに、「遅生まれ」ニューロンとの間で本来行なわれるべき「共同作業」にどのような影響がでるかを明らかにする。次いで、生後に大脳の大脳皮質の「領野」形成全般に対してどのような影響があるか明らかにする。なお、上述「追跡観察」とリンクさせて解析を進める。もし形態的変化が認められれば、同様に得た生後マウスを、歩行など行動学的検査に供する。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物購入に関して当大学実験施設で繁殖させたマウスを多く使用する事できた。 二光子顕微鏡の設備使用料等についても、予備実験及び準備を当研究室で大半を行ったあとに共同使用設備室で行う事で、当初予定していた額より大幅に節約する事が出来た。 また、加温システム等機材について、自作品を組み合わせる事で、購入品よりも実験の目的に合うようになるだけでなく、大幅に金額を削減することができた。これら昨年度節約した予算を今年度以降に使用し、当初計画していたものよりさらに高精度なシステムを作製する予定である。
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