研究課題/領域番号 |
17K10188
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
谷田 任司 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30589453)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エストロゲン関連受容体(ERR) / PGC-1α / PGCvf / エネルギー代謝 / 脳発達 |
研究実績の概要 |
胎児・新生児期の脳ではニューロンやグリアの増殖・移動・分化が盛んに起こっており、神経伝達を主機能とする成熟後の脳とはエネルギー需要を満たすための代謝様式が異なると予想される。一方、胎児・新生児期の脳は環境因子に対する感受性が成熟後の脳と比べ非常に高いことが知られている。特に、発達期におけるステロイドホルモン作用の有無は、その後の脳発達に対し決定的な役割を果たすことから、ストレスや微量化学物質などによるホルモンシグナルの変調が正常な脳発達に影響することが懸念されている。 エネルギー代謝を担う転写因子の中でも、核内受容体の1つであるエストロゲン関連受容体(ERR)は、内在性リガンドが見付かっていないが、ステロイドホルモンのシグナル経路に干渉し、遺伝子発現を制御することが明らかとなっている。従って、発達期の脳におけるERRの役割を明らかにすることが、正常な脳構築におけるエネルギー代謝の意義とそれに対するホルモンシグナルの影響を解明する上で重要であると考えられる。 本研究では、3つのサブタイプを有するERR(α、β、γ)の中でも、脳において強く発現するERRγのラット脳における局在を免疫組織化学的に明らかにした。また、ラット視床下部よりERRの転写共役因子として知られるPGC-1αのスプライシングバリアントを同定し、これがヒトおよびマウスのPGC-1 variant formのホモログであることを確認した。PGCvf特異的な機能を調べるため、ラット胎児由来の海馬初代培養系にPGCvfを発現させると、ニューロンの突起の伸長がPGC-1αを発現させた場合と比べ顕著に促進された。また、PGCvfは、ERRγを介した応答配列における転写活性をPGC-1αよりも有意に強く亢進することが判明した。以上より、PGCvfはPGC-1αとは異なる機能を有することが示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エネルギー代謝を担う転写因子の1つであるERRの脳における局在を明らかにし、その転写活性を制御する共役因子のバリアント・フォームを同定した。当該年度の研究成果はまとまりつつあり、既に論文を執筆中である。次年度投稿予定。
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今後の研究の推進方策 |
PGCvfとPGC-1αの脳における局在・機能の違いを検索する。 PGCvfとPGC-1αは、抗体によって免疫組織化学的に染め分けることが困難であることから、in situ hybridization法による局在比較を計画中である。 また、複数の脳部位由来の初代培養系を用いたノックダウン系や過剰発現系により、脳発達におけるエネルギー代謝の役割について検証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子導入用試薬、RNA抽出試薬、細胞培養ディッシュのコーティング剤が当初予定していたよりも少量で実験を遂行できることが判明した。結果的に、予定していたほどの量を購入する必要が無くなったため、当該年度に残額が生じた。この残額で不要な物品を購入することなく、次年度に使用することとした。当該年度で得られた成果の発表のため、次年度は国際学会への参加や論文投稿を計画している。残額(次年度使用額)は、これらの旅費や英文校正費などに充てる予定である。
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備考 |
谷田任司,松田賢一,田中雅樹. 転写共役因子PGCvfの細胞内動態と乳酸ストレス応答 第7回4大学連携研究フォーラム(京都府立医科大学)2017年11月
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