低出生体重児の約10%は、成長が追いつかず最終身長も軽くなることが明らかになっている。しかし、その内分泌的な機序は明らかにされていない。オランダ飢饉などの疫学研究から、低出生体重児は非感染性の慢性疾患の発症リスクが高くなることが報告されている。我々は在胎期間や出生仔数には影響が無く、出生体重が軽くなる胎生期低糖質カロリー制限ラットモデルの作出に成功し、このラットモデルを用いた追いつき成長が障害されるメカニズムの解析を行った。 正常な成長には、脳下垂体から分泌される成長ホルモンが血液を介して肝臓に発現する成長ホルモン受容体に作用し、肝臓からのインスリン様成長因子 (IGF-1) の分泌を促進して、血液中に分泌されたIGF-1は骨の末端にある軟骨細胞の増殖と分化を促すことで、骨が伸張し身長が伸びる。妊娠中に低糖質カロリー制限をした母ラットからの低出生体重ラットは、肝臓で低分子RNAの一種のmiR-322の発現が亢進し、このmiR-322が成長ホルモン受容体の発現量を減じ、肝細胞に成長ホルモンの情報が伝わらずにIGF-1の産生量も低下して身長の伸びが障害されていることを明らかにした。このmiR-322は肝臓でのGH受容体の発現や体長を負の相関を示すこと、初代培養肝細胞でmiR-322を過剰発現させると、GH受容体の発現が低下することから、塩基配列から推測されたmicroRNAが生体内で実際に機能していることが確かめられた。 成長が追いつかなかった体長の短いラットを交配して次世代仔を得ると、この孫世代のラットは、母ラットが妊娠中にダイエットをしなくても出生体重が軽くなり、またその一部は同様の機序により追いつき成長が障害されること、少なくとも玄孫世代まで影響を残すことも明らかにした。さらに、父あるいは母のいずれか一方が短体長低体重であれば、その仔の一部に影響が残ることも示された。
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