研究実績の概要 |
脳のグリコーゲン含量は肝臓・筋肉に比較すると極めて少量であり、その生理学的な意義は十分には解明はされていない。しかし近年一過性の低酸素、虚血などの緊急時において脳代謝の補助的エネルギー供給分担機構としてneuroprotectionに寄与していることが注目されている。また臨床的には同程度の新生児仮死を経験しているにもかかわらず、神経学的予後に差があり、定型発達を示すものから脳性麻痺などの後遺症を残すものまで差があることが臨床的に経験されてきた。 今回新生児仮死に起因する神経学的後遺症の発症病態を、脳グリコーゲン代謝に注目して検討した。対象は満期産児で5分後アプガースコアが7以下の症例41例において、後に神経学的後遺症(主に運動障害)を残したCP群(23例)と定型発達のTD群(18例)に分類し、グリコーゲンホスホリラーゼ(脳型;PYGB、筋型;PYGM、肝型;PYGL)遺伝子バリアントを2群間で比較検討した。あわせて脳に発現する解糖系のkey enzymeであるホスホフルクトキナーゼ(筋型;PFKM、肝型;PFKL,血小板型;PFKP)、ホスホリラーゼキナーゼについても同様に検討した。対象とした遺伝子群に遺伝子バリアントを複数認めたが、CP群とTD群で比較したところ、PYGLイントロン7のスプライスサイトのバリアント(p<0.05)、PFKPエクソン9のsynonymous variant(p<0,01)に統計学的に有意なgenotypeの差が認められた。今後は本研究で見られたCP群とTD群の有意な遺伝子多型の差が、新生児仮死に起因する神経学的後遺症の予後リスクのバイオマーカーとなりうるか基礎病態の研究も併せて確認する必要がある。
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