研究課題/領域番号 |
17K10202
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所) |
研究代表者 |
上田 陽子 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 病因病態部門, 研究技術員 (50755808)
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研究分担者 |
松尾 勲 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 病因病態部門, 部長 (10264285) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マウス / 細胞外基質 / 子宮圧 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
ほ乳動物胚の子宮内での発生時、子宮組織と胚の間には胎盤や胚と包む胚膜が形成される。発生過程で最初に形成される胚膜は、ヒトではヒューザー膜、マウスではライヘルト膜と呼ばれるが、その機能の詳細は明らかではない。ライヘルト膜形成不全を示すラミニン欠損胚・フクチン欠損胚では胚の形が変形し、発生初期に胎生致死となる。本研究では、ライヘルト膜形成不全と胚の変形の因果関係を明らかにし、ライヘルト膜は子宮の圧力から胚を保護するのに必要であることを証明することを目的としている。平成30年度は、ラミニン欠損胚・フクチン欠損胚の病理解析と平行し、前年度明らかにした初期発生期の子宮内圧を薬理的に低下させ胚の変形を防ぐことができるかを検討した。さらにMicro-CTによる非破壊的な子宮内の形態解析により、下記の内容を明らかにした。 1)ラミニン欠損胚では胎生4.5日目から致死直前の6.5日目において、各種細胞群の分化マーカーの発現には大きな異常はみられない、一方で胚膜の構成成分の細胞外基質タンパクの局在には異常が見られた。 2)フクチン欠損胚6.5日目において、細胞増殖マーカーを発現している細胞数は野生型胚と有意差がなかった。 3)子宮筋の弛緩剤投与により子宮内圧を低下させると、ラミニン欠損胚の変形はレスキューされた。 4)Micro-CTによる解析から、子宮組織と胚の間にはライヘルト膜によってつくられた空間が存在した。一方、ラミニン欠損胚では子宮組織と胚の間には空間が存在していなかった。 以上の結果から、ラミニン欠損胚の変形は、胚自身の分化・増殖の異常ではないと考えられた。また、生体内での子宮内圧低下させるとライヘルト膜欠損胚の変形がレスキューされたことから、ライヘルト膜は子宮からの圧力から胚を守る役割を持つことが考えられた。その際、ライヘルト膜が子宮組織と胚の間に作る空間が関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
4年計画のうち2年目にあたる本年度は、計画していた内容である遺伝子欠損胚の病理解析に加え、前年度明らかにした子宮内圧を生体内で低下させ、ラミニン欠損胚の変形をレスキューすることができた。また当初の計画にはなかったが、Micro-CTによる非破壊的な子宮内の形態解析を行ったことで、子宮組織と野生型胚の間にはライヘルト膜が作り出す空間の存在が明らかとなった。さらに、ライヘルト膜がないラミニン欠損胚ではこの空間がなく、子宮組織に隙間なく取り囲まれていることを明らかにすることができたことから、本研究の当初の計画以上に進展している。 これらの結果から、遺伝子欠損胚の変形は胚自身の異常ではないことが明らかになりつつあり、さらに、子宮内圧と胚の変形が直接的に関わることを示唆する新たな知見が得られた点で、今後の目標達成が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ライヘルト膜の有無により、外部からの力によって胚の変形に違いがみられるかどうかを明らかにする。具体的には、ライヘルト膜を除去した野生型胚と、ライヘルト膜に包まれた野生型胚に、原子間力顕微鏡(AFM)により一定の力を加え、胚の変形を比較し解析する。 さらに、ラミニン欠損胚・フクチン欠損胚でも同様に実験を行い、ライヘルト膜を除去した野生型胚との比較により、変異体の胚自身の異常による変形ではないことを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定よりも物品を安く購入できたため。
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