研究課題/領域番号 |
17K10210
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
窪田 泰夫 香川大学, 医学部, 教授 (10126047)
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研究分担者 |
塚本 郁子 香川大学, 医学部, 寄付講座教員 (10183477)
五十嵐 淳介 森ノ宮医療大学, 保健医療学研究科, 教授 (20346638)
中井 浩三 香川大学, 医学部附属病院, 講師 (40363204)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 全身性強皮症 / 線維化 / COA-Cl / CTGF / TGF-β |
研究実績の概要 |
研究実績の概要 全身性強皮症には確立された治療法がなく、限られた対症療法が主体となっている。結合組織成長因子(CTGF)は全身性強皮症患者で発現が増加しており、抗CTGF抗体療法が合併症である特発性肺線維症に有効であることが報告された。アデノシン類縁体のシクロブチルプリン誘導体であるCOA-Clは水溶性安定低分子でありながら血管新生促進作用、神経栄養・保護作用などの生理活性作用がある。COA-ClはNHDFとの共培養において、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞の管腔形成を促進したことから、線維芽細胞で薬理作用を発揮すると考えられる(Tsukamoto, Biochem Biophys Res Commun 2010 399:699-704)。事実、NHDFにおいてCOA-Clは血管内皮成長因子の分泌を亢進させることが報告された(Igarashi, Physiol Rep 2016 e12742)。これらの報告に続いて、我々はCOA-ClがTGF-β刺激により増加したNHDFのCTGF産生をmRNA発現とタンパク発現のレベルで抑制することを発見した。さらにそのメカニズムの解明に成功した。COA-ClはTGFーβ刺激によるNHDFのシグナル伝達物質であるSmadやERKの活性化には影響しなかったが、Aktの活性化を抑制した。COA-ClはAkt活性化を抑制することで、NHDFのTGF-β刺激によるCTGF産生をmRNA発現とタンパク発現のレベルで抑制することが分かった。さらに、COA-ClはアンギオテンシンIIにより誘導された全身性強皮症モデルマウスのCTGF発現を抑制し、皮膚症状を改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究はおおむね順調で、すでにデータの一部は論文化し皮膚科専門英文誌にアクセプトされ掲載予定となっている。今後は本剤が低分子化合物であることを応用し、外用薬や皮膚局所への注射剤としての応用も試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
線維芽細胞の活性化が全身性強皮症の主たる原因である。線維芽細胞はサイトカインTGF-β;によって筋線維芽細胞に形質転換し、I型コラーゲンをはじめとした繊維状タンパク質を産生する。そこでTGF-βを標的とした全身性強皮症治療が試みられたが、抗TGF-β抗体、TGF-β受容体阻害剤のいずれも無効であった(Leask, J Cell Commun Signal 2011 5:125-129)。TGF-βの次に治療標的となったのがCTGFである。CTGFの全身性強皮症の病態における多彩な役割はまだ完全には解明されていないが、全身性強皮症患者でCTGF発現が増加していることや(Nikitorowicz-Buniak, J Invest Dermatol 2014 134:2693-2702)、抗CTGF抗体が特発性線維症に有効であることが確認され、非盲検第2相試験中である。このことから、申請者らはCTGFを抑制することで新しい全身性強皮症の治療法が確立できると考えた。 現在のところCOA-Clの臨床応用には様々な問題も残っている。しかしながら本研究のような基礎研究の積み重ねにより、近い将来に全身性強皮症患者の新しいひとつの治療法として応用されることが切望される。また今後は本剤が低分子化合物であることを応用し、外用薬や皮膚局所への注射剤としての応用も試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に一部データをまとめ、論文化を試みた。その際の英文校正費用や論文投稿料につき確保していたが、投稿受領が年度末になったため、いまだそれらの請求が届いていない。この費用に充てる予定の経費が次年度に繰り越されたものと思われる。また、これらのデータの学会報告も予定していたが、諸般の事情により希望していた学会に参加ができず、その学会出張のための旅費分も余剰となっている。
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