研究課題/領域番号 |
17K10227
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
眞鍋 求 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30138309)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞極性 / 有棘細胞癌 / プロテインキナーゼC / aPKC / シグナル伝達 / 皮膚癌 |
研究実績の概要 |
細胞内シグナル伝達経路を司るプロテインキナーゼCファミリーの一つ、atypical protein kinase Cλ (aPKCλ) は、上皮の極性形成を制御している。aPKCλの活性化は基底細胞癌の発症に関与していることが報告されているが、我々が表皮特異的にaPKCλを欠失したマウスを用いて2段階化学発癌実験を行ったところ、有棘細胞癌が高頻度で発症することが判明した。すなわち、「aPKCλは基底細胞癌の発症を正に、有棘細胞癌の発症を負に制御している」可能性が示唆された。本研究は、皮膚癌の種類により相反する作用を持つ、aPKCλの機能的両義性の分子機序を解明することを目的とする。 マウスを用いた発癌実験の結果はマウスの遺伝的バックグランドに左右されうる。上述の我々の2段階化学発癌実験は、癌ができにくいとされるC57BL/6系統(黒ネズミ)のマウスを用いて行ったものである。そこで平成29年度は、遺伝的バックグランドを発癌実験に頻用される、好発癌系のFVB/N系統(白ネズミ)に変更し、aPKCλ欠損の効果をより短期間に、より効率よく調べることができるマウスの作製に注力した。 遺伝的バックグランドを変更するには、最低5世代を経ることが必要とされている。我々は「黒ネズミ」と「白ネズミ」の交配を繰り返し、最終的に「白ネズミ化」した表皮特異的aPKCλ欠損マウスを得ることができた。「黒ネズミ」の表皮特異的aPKCλ欠損マウスは、毛包幹細胞の減少により脱毛をきたすのが特徴である。白ネズミ化した表皮特異的aPKCλ欠損マウスも脱毛をきたし、aPKCλは遺伝的バックグランドによらず毛包幹細胞の維持に必要なこともわかった。白ネズミ化したことにより、本研究課題がさらに効率よく進展することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「黒ネズミ」のC57BL/6系統のマウスで2段階化学発癌実験を行うと、腫瘍が形成されるまでに約半年間、発癌プロモーターをマウスの皮膚に塗布する必要があった。本研究の律速段階である表皮特異的aPKCλ欠損マウスの白ネズミ化に成功したことで、本研究課題がさらに効率よく進むことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
「白ネズミ」化した表皮特異的aPKCλ欠損マウスを用いて、当初の計画に基づき以下の研究を進める。①コントロールと比較し、aPKCλが欠損すると腫瘍形成がさらに促進されるかを検討する。腫瘍ができ始めた週数、パピローマ、ケラトアカントーマ、有棘細胞癌の数、腫瘍の大きさ、転移の有無などを詳細に記録する。②2段階化学発癌では、Ras経路が活性化される。活性化型Ras(RasV12)を導入した培養表皮細胞でsmall hairpin RNA (shRNA)によりaPKCλをノックダウンさせたときに、Rasの下流のMAPキナーゼ経路、PI3K経路の活性化状態がどのように変化するか、免疫ブロット法により調べる。また、増殖曲線、コロニー形成試験による腫瘍形成能を解析する。③化学発癌実験でできた有棘細胞癌から細胞株を樹立し、そこに野生型のaPKCλを導入して増殖、コロニー形成試験による腫瘍形成能を解析する。④有棘細胞癌の手術標本を用い、aPKCλの発現を免疫組織染色で調べる。また、新鮮な手術標本を用いて定量的PCR法でもaPKCλの発現を調べる。
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