本研究では、ヒト表皮角化細胞動態解析とマウス皮膚創傷治癒モデルを組み合わせることによって、表皮組織の再生原理の解明を目指すことを目的としている。ヒト表皮角化細胞はマウス3T3線維芽細胞をフィーダー細胞として共培養すると、多層化しながらコロニーを形成する。昨年度は、位相差顕微鏡を用いたタイムラプスイメージングによって、このコロニー形成過程の連続画像を取得し、細胞分裂周期、細胞移動速度、細胞分裂面について、定量的なデータを得ることに成功した。本年度は、これらの細胞動態と定量データを基にして、1個の表皮角化幹細胞が、分裂しながら多層化コロニーを形成する過程を数理モデル化し、コロニー形成過程を計算機内でシミュレーションする手法を開発した。このシミュレーションにおける様々なパラメータを操作し数値計算を行ったところ、ヒト表皮角化細胞コロニー形成に影響を与える細胞動態を予測することに成功した。また、実際の培養実験で、この細胞動態に影響を与える因子を人為的に加えたところ、シミュレーションで予測されたどおりのコロニー形態を再現することができた。以上の結果は、ヒト表皮角化幹細胞が分裂しながら多層化コロニーを形成する際に、必須の細胞動態を同定することに成功したことを示している。また今年度は、表皮創傷治癒が遅延し、慢性潰瘍が生じたヒト皮膚試料を入手することができた。さらに、これら試料の組織切片を作製し、今後の慢性潰瘍の組織化学的解析の基盤を作ることに成功した。
|