研究課題
分子標的薬の登場・発展に伴い、患者個々の薬効の違いなどが明らかになり、癌医療は個別化医療へと進みつつある。個別化医療の実現には、治療効果の予測や適切な薬剤・治療選択、予後予測に用いるバイオマーカーの発見が必要不可欠である。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を分子標的とした癌治療戦略は皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)はじめとする悪性腫瘍で実際に成果を挙げている。また、これまでに我々は成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)においてHDAC8が腫瘍細胞の増殖・生存に大きく寄与することを明らかにし、ATL治療の分子標的としての可能性を示した。しかしながら、HDACには多種多様なアイソザイムが存在し、既存のHDAC阻害薬では広域作用性ゆえに重篤な副作用を生じさせることが治療上の問題となっている。したがって、HDACアイソザイム選択的な治療に有用な分子基盤の解明が必要となる。本研究では、HDACアイソザイム選択的な皮膚T細胞腫瘍の発癌に与える影響や個別化医療を意識した新たな治療戦略および診断に有用な因子を見出すことを目的としている。本年度は、血液腫瘍の発癌における役割については不明な点が多いHDAC5におけるATLとCTCLでの役割について解析を行った。その結果、1)皮膚T細胞腫瘍、特に急性型およびリンパ腫型ATLの臨床検体の多くでHDAC5を高発現する、2)ATL細胞株においてもHDAC5を高発現する、3)ATL細胞株におけるsiRNAを用いたHDAC5発現減少はATL細胞の増殖を有意に抑制することが明らかとなった。これらのことから、皮膚指向性のあるATLにおいてクラスIIのHDACに属するHDAC5が高発現することによってATL細胞の増殖を促進し、発癌の一助となることが示唆され、HDAC5はHDACアイソザイム選択的な新規治療標的となる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の我々の研究計画通り、HDAC5が臨床検体を含め皮膚T細胞腫瘍の1つであるATLで高発現することが確認され、またATL細胞の増殖に寄与する結果が得られた。この成果は、本年度の研究計画通りであり、概ね順調に計画が進展していると思われる。
本年度は、順調に研究計画を進めることができた。したがって、次年度の研究計画に大きな支障はなく、概ね当初の研究計画に沿って進めていく。次年度はATLを中心にクラスII HDAC であるHDAC4とHDAC5を分子標的とした治療戦略の基盤形成を目指して、これらの発癌への分子メカニズムの詳細とクラスII HDAC阻害薬の有効性について検討していく。
【次年度使用額が生じた理由】 本研究計画の実行において、主に必要となる研究経費は細胞培養や解析に使用する試薬、キットなどの消耗品費にある。しかしながら、次年度以降に予定されている受託解析等の費用は研究の進展によって実験系統が変動する恐れがあるため、消耗品等の購入単価の削減や節約によって本年度の消耗品費の一部を、次年度の使用予定額として補填する必要が生じた。【使用計画】 本年度同様、次年度もこれら消耗品費に研究費を使用する。また、次年度に必要となる機器の多くは当該研究施設にて整備されており、当該研究施設の機器で解析できない場合でも外部受託解析が可能であるため新たに購入する必要はない。しかしながら、本研究目的を達成するためにsiRNA 、real-time PCR解析に必要なTaqMan probe、ChIPアッセイに用いる抗体、次世代シーケンサー用の消耗品類など一般試薬類と比較して単価がやや高価なものが必要となる。また、次年度に持ち越される研究に必要な消耗品費は本年度未使用の助成金で補填する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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