研究課題
分子標的薬の登場・発展に伴い、患者個々の薬効の違いなどが明らかになり、癌医療は個別化医療へと進みつつある。個別化医療の実現には、治療効果の予測や適切な薬剤・治療選択、予後予測に用いるバイオマーカーの発見が必要不可欠である。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を分子標的とした癌治療戦略は皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)はじめとする悪性腫瘍で実際に成果を挙げている。しかしながら、HDACには多種多様なアイソザイムが存在し、既存のHDAC阻害薬では広域作用性ゆえに重篤な副作用を生じさせることが治療上の問題となっている。したがって、HDACアイソザイム選択的な治療に有用な分子基盤の解明が必要となる。本研究では、HDACアイソザイム選択的な皮膚T細胞腫瘍の発癌に与える影響や個別化医療を意識した新たな治療戦略および診断に有用な因子を見出すことを目的としている。前年度までに我々はATLにおけるHDAC4の高発現が腫瘍細胞の増殖を促進することを明らかにしたが、本年度はより詳細にHDAC4による腫瘍形成メカニズムについて検討した。その結果、1)ATL細胞株において、同じHDACファミリーであるHDAC3がHDAC4との結合パートナーであること、2)ATLにおけるHDAC3の発現量は正常末梢血細胞と比較して有意差はないこと、3)ATL細胞株にHDAC3およびHDAC4選択的な阻害薬を併剤処理すると単剤での作用に比べて相乗的にアポトーシスを誘導し、細胞増殖を抑制することを明らかにした。これらのことから、ATL細胞で異所的に発現誘導されたHDAC4は普遍的に発現するHDAC3と協力してATL細胞の増殖・生存を促すことがATLの腫瘍形成メカニズムの1つであると示唆される。また、HDAC3とHDAC4選択的な阻害薬は副作用を抑えたHDACアイソザイム選択的なATLの新規治療法となる可能性を示した。
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