研究課題/領域番号 |
17K10252
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
塩濱 愛子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (40383731)
|
研究分担者 |
佐々木 貴史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70306843)
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70335256)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 皮膚遺伝学 / 遺伝性角化症 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
長島型掌蹠角化症(NPPK)は幼少時に発症する常染色体劣性遺伝を示す掌蹠角化症で、紅みを伴う非進行性の境界明瞭な軽度の過角化や、手背・手首内側・足背・アキレス腱部にまで皮疹が及び、多汗を伴うことが多いという特徴を示す。 申請者らはNPPK患者の収集を継続し、典型的な日本人に多く見られる3種のSERPINB7遺伝子の機能喪失型変異のいずれかが、ホモ接合もしくはそれぞれがコンパウンドヘテロ接合を有する症例の他に、新たな複数のミスセンス変異とコンパウンドヘテロ接合を有していた症例を報告してきた。NPPKは特徴的な手足の角化性紅斑や高率に掌蹠多汗症を伴い、さらに悪臭や足白癬を合併するなど、患者のQOLに影響を及ぼしている。 本研究ではNPPKの発症機序解明と、患者の不快感を和らげるための治療法を模索している。更に申請者らは研究開始当初より、既知の機能喪失型変異を片アレル変異のみを有する症例を認識しており、それらの症例数は徐々に増加傾向にあり、NPPK患者の1割程度となっている。さらに片アレル変異が未同定のNPPK 患者は通常のNPPK患者と比べて、症状が軽減している知見を得て、変異未同定NPPK患者におけるゲノム解析を推進することを計画した。 また、治療法を模索する中で、NPPK患者の紅斑を生じた掌蹠部位の皮膚微生物叢解析を並行して開始し、継続的な観察から除菌治療法の確立につなげることでNPPK患者のQOL向上を目指している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SERPINB7遺伝子コーディング領域に変異が1アレルのみしか同定されないNPPK患者について、前年度において、他方のアレルに存在する変異を同定するための全SERPIN遺伝子ファミリーのゲノム領域を対象とした次世代シーケンシング解読を行ったが、NPPK疾患原因となる既知変異と連鎖する多型は判明したが、分離アレルでの疾患原因となる新規変異を同定するには至らなかった。 そこで、症例報告を地道に公表することにより、慶應義塾大学病院皮膚科外来を受診したNPPK患者は150症例を超え、次はSERPIN遺伝子ファミリーにこだわらず、全ゲノム解析を行うために適する家系を調査する段階に達している。 更に専門性を活かした治療を行うために、同意を得た患者より定期的な皮膚微生物叢解析と除菌治療を開始し、臨床症状と皮膚微生物叢を統合的な分析を行っているが、一定の効果を得ているものの、課題点も当然発生し、随時修正対応中であるため、次年度にて総括できるように準備している。
|
今後の研究の推進方策 |
変異が1アレルのみしか同定されないNPPK患者の解析は、ゲノム構造多型が起こっている可能性が残るため、既に得られているデータの精査を更にすすめ、実験手法の変更も視野に入れて今後も解析を進める。次年度は全ゲノム解析へ進めることを検討した。 NPPK患者の細菌叢解析は順調に進んでいる。診察時にNPPK患者の角質層から生じる鱗屑を一人ずつ鏡顕観察すると、全員真菌が皮膚に存在することはないという知見を得ている。そのため真菌叢解析に手を広げず、細菌叢解析に特化し、除菌治療による表皮菌叢の変化や除菌後の環境による表皮菌叢形成の違いを、比較評価を行う。 更に、患者の主訴の一つである手足の角化性紅斑の原因について、患者検体の角質層を用いた脂質解析を行い、角化性紅斑の発生機序を見出す糸口を、次年度の総括にて示せるようにしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンシング法の解読を行うためのライブラリー作製用試薬にかかる購入は、多検体を集めてからでサンプルを処理するほうが、経費を有効活用することが可能であり、更に最終年度において全ゲノム解析を検討しているため次年度に繰越を行った。また、一部実施内容を変更する必要が生じたため、今年度では経費を節約することにした。
|