研究課題
皮膚にはヒトβ-ディフェンシンやLL-37などの抗菌物質が存在し、微生物感染から生体を守るために重要な働きをしている。さらに、これらの抗菌物質が数多くの皮膚疾患の病態に関与することが知られている。最近、インスリン様成長因子結合タンパク質5由来抗菌ペプチド(AMP-IBP5)が報告され、β-ディフェンシンやLL-37より強い抗菌活性を示す。しかしながら、AMP-IBP5の抗菌作用以外の免疫調節機能は詳細な検討はなされていない。そこで、平成31年~令和2年、AMP-IBP5の役割を解明するため、ヒト由来ケラチノサイトや線維芽細胞における活性化、血管新生、創傷治癒などの機構を明らかにした。また、動物実験が行った。平成31年では、AMP-IBP5がMas関連遺伝子(Mrgpr)X1~X4受容体とその下流であるMAPキナーゼおよびNF-κB経路を介して、ケラチノサイトの増殖と遊走能を促進する。令和1年では、AMP-IBP5 がLRP1受容体を介して、ヒト線維芽細胞の遊走能と増殖能を増強させ、さらに創傷治癒を促進させた。令和2年では、AMP-IBP5が正常なマウスおよび糖尿病性潰瘍モデルマウスの創傷治癒を促進することがわかった。AMP-IBP5の作用メカニズムを調べたところ、EGFR受容体とその下流であるSTAT分子類に関与することがわかった。以上の結果は、AMP-IBP5は抗菌作用に加えて、創傷治癒に関わる細胞の活性化を通して創傷治癒の過程に貢献している可能性があることが示唆された。AMP-IBP5が難治性糖尿病性潰瘍の創傷治癒を促進することによって、皮膚再生、感染症や難治性創傷などの疾患の治療法へ応用できることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
研究経過計画の①AMP-IBP5刺激によるケラチノサイトや繊維芽細胞からの血管新生因子の発現・産生、②AMP-IBP5に対する遊走作用と細胞増殖に及ぼす影響と③マスト細胞に対する作用とそのメカニズムを明らかにし、学術論文で発表した。さらに、AMP-IBP5の糖尿病性潰瘍モデルマウスの血管新生および創傷治癒促進に及ぼす影響を明らかにしたので(論文リバイス中)、当初の計画以上進展している。
1.AMP-IBP5の糖尿病性潰瘍モデルマウスの血管新生および創傷治癒促進に及ぼす影響の追加実験。2.AMP-IBP5の皮膚バリア機能に対する効果。
新型コロナの影響で、実験が予定通り実施できず研究計画の変更が必要であった。また、発表を予定していた学会が2021年4月に開催延期となり、本研究課題の発表であるため出張関係費の繰越を希望した。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
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