研究課題
ヒトiPS細胞由来メラノサイト(色素細胞)を使用した皮膚科領域医療への研究を行う。採血により獲得したTリンパ球由来iPS細胞を使い、メラノサイトへの誘導、さらに改良し、より正確に、より効率よく、より大量に増殖させる独自の条件設定が完成する。メラノサイトの欠如・機能不全疾患である尋常性白斑や脱色素斑へのメラノサイト移植を行う。尋常性白斑は、皮膚の色が消えてしまう、白くなってまだら状となる等、患者さんの精神的な負担は想像以上である。本研究で確立した尋常性白斑や脱色素斑への新規治療法は、有効な治療法がない現在の医療に、大きな貢献を及ぼすことが予想できる。美白化粧品の開発時における評価試験で、最も重要なデータとなるのがヒトメラノサイトに対する効果である。ヒトメラノサイトを用いたチロシナーゼ合成抑制試験は、培養されたメラノサイトを美白化粧品の成分とともに所定時間培養後、メラノサイトを回収し、酵素活性あるいはWestern blotting法などを使用して、検体のチロシナーゼ合成抑制効果を検討する。実は、こうした評価試験で使用されるヒトメラノサイト株には、日本人由来のものがない。白人や黒人由来である。さらに、ロット毎にメラノサイト株を採取されたヒトが異なる。従って、実験に際してばらつきが多い、安定性に掛ける事態が生じることは珍しくない。そのため、開発時の評価試験データを信頼し過ぎると、実際の臨床での効果を見誤ってしまう可能性がある。美白化粧品の開発時における評価試験で、使用する個人に合わせたヒトiPS細胞由来メラノサイトを使用すれば、試験データが信頼でき、患者オーダーメイドの美白化粧品を開発できる。本システムの条件設定を検証してより改良すれば、メラノサイトをコントロールし、皮膚の“色”を自由に操れる可能性がでてくる。
2: おおむね順調に進展している
独自のヒトiPS細胞由来メラノサイトを誘導する培養液であるiDMM(human iPS cell-derived melanocyte medium)を完成した。培養皿内の黒色細胞塊をパイペッティングにて、新規に開始したiPS細胞iDMM培地へ移植する。すると、パイペッティングした黒色細胞塊は、ほぼ確実に培地に接着し成長した。培養液(培地)交換の際に使用後の培養液(培地)を捨てずに回収する。そして回収した使用済みの培養液を遠沈する。すると、回収チューブに沈殿した黒色塊が確認できる。上澄み中に浮遊していた黒色細胞すなわちヒトiPS細胞由来メラノサイトと考えられる。この沈殿黒色塊を新規の培養液に再度、融解し、新規に開始したiPS細胞iDMM培地の培養液(培地)として使用する。すると、遠沈して回収した黒色細胞塊は、ほぼ確実に培地に接着し、ところどころで成長した。本システムでのヒトiPS細胞由来メラノサイトを、KSN Slcヌードマウス皮膚に注射し、メラニン色素の産生を試みた。皮下および皮内注射にて、背から側腹部に青から黒の色素産生に成功した。代表的な美白化粧品の主成分であるコウジ酸、ルシノール、アルブチン、ハイドロキノンをヒトiPS細胞由来メラノサイト培養系に濃度を変えて添加しその効果を検証する。すでにコウジ酸では濃度依存性、時間依存性に黒色変化がみられている。
尋常性白斑や脱色素斑への次なる臨床応用として、より実践に則したハプロタイプホモのヒトiPS細胞を購入し、より大量・より高効率のヒトiPS細胞由来メラノサイトを作成する。代表的な美白化粧品の主成分であるコウジ酸、ルシノール、アルブチン、ハイドロキノンをヒトiPS細胞由来メラノサイト培養系に濃度を変えて添加しその効果を検証する。メラノサイトの癌化である悪性黒色腫の治療で、根治困難な症例を中心に、免疫チェックポイント阻害薬が普及している。最近、免疫チェックポイント阻害薬のなかのPD-1治療において、白斑発症例が白斑非発症例より有意に生存率が良かったことが報告された(Freeman-Keller M et al. 2016)。この結果は、メラノサイトとメラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)のメカニズムに関連した箇所があり、抗がん剤が作用した可能性が高い。すなわち、抗がん剤免疫チェックポイント阻害薬が、メラノサイトの癌化メカニズムを攻撃すると同時に、反対にメラノサイトでのメラニン産生機序への免疫寛容を破綻させて、白斑が生じることが想定される。そこで、治療以前に自分のメラノサイトが培養維持化できていれば、この細胞を使用して、in vitroの実験で、免疫チェックポイント阻害薬の効果や選択が確認できる。
基盤の細胞株となるハプロタイプホモiPS細胞の選定と購入に時間がかかっている。異動により実験設備のセットアップに時間が必要となった。美白化粧品の成分入手がメーカーからの提供や承認などで時間がかかっている。
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