研究課題
本申請者らはこれまで、統合失調症発症の病態にグルタミン酸神経伝達の障害が関連しているという仮説のもと、統合失調症患者においてグルタミン酸伝達関連遺伝子の発現解析や関連解析を行ってきた。この研究を通じ、グルタミン酸受容体足場タンパクをコードする遺伝子が、統合失調症において発症年齢依存的な発現の違いを示し、また遺伝的な関連が見られることを明らかにした。本年度は統合失調症のグルタミン酸神経伝達障害仮説のもと、対象とする遺伝子を広げ、グルタミン酸受容体のコアゴニストであるD-セリンの放出に関連する遺伝子PAPST1に着目して解析を行った。ますマイクロアレイを用いたin silico解析では統合失調症において発現低下を認めた。本研究ではin situ hybridizationにより、PAPST1 mRNAはAnterior Cingulate Gyrusの灰白質に比較的均一に発現していることが明らかになった。しかし27人の健常対照者と37人の統合失調症患者の比較ではその発現量に有意な違いは見られなかった。一方、iLINCSを活用したPAPST1に関するpathway解析では、PAPST1に関連するseed遺伝子群が細胞内代謝、炎症、細胞分裂、酸化ストレス防御、アポトーシス、DNA修復などに関与していることが分かった。PAPST1は細胞内のsulfation過程における基質を輸送する働きもあることが知られているが、リチウムはsulfation関連酵素に強く作用するものであることから、PAPST1が統合失調症だけでなく、双極性障害等の気分障害の病態にも関連している可能性が示唆された。
3: やや遅れている
グルタミン酸神経伝達に関連する遺伝子PAPST1に新たに着目し、統合失調症におけるその発現を評価することができた。一方で本遺伝子に関する知見収集や、iLINCSを用いたバイオインフォマティックス解析のセットアップに時間を要した。同時に仮説の対象を気分障害まで拡大して研究を進める価値を見出すことができた。
PAPST1遺伝子について、統合失調症における発現解析、遺伝子関連解析を行う。また、バイオインフォマティクスによる検討を進め、PAPST1の疾患における役割を考察する。さらに気分障害を対象とした発現解析、遺伝子関連解析を行い、リチウムとの関連性も含めた検討を行う。
研究に関連する新たな遺伝子に着目し、本遺伝子に関する本年度の主な研究はバイオインフォマティクスを用いたため、発現解析や遺伝子関連解析のための大きな費用は生じなかった。次年度は引き続き発現解析と遺伝子関連解析のために使用する計画である。
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