統合失調症のグルタミン酸仮説に基づき、NMDA型グルタミン酸受容体のコ・アゴニストであるD-serineの輸送に関連すると考えられるSLC35B2(PAPST1)に関する遺伝子関連解析と、死後脳を用いた発現解析を行った。 統合失調症に関しては、遺伝子関連解析ではSLC35B2と統合失調症に有意な関連を認めたが、死後脳における変化は認められなかった。ただし、Mount Sinai School of Medicine datasetとして公的に公表されているマイクロアレイ法を用いて得られたデータでは、SLC35B2は統合失調症の死後脳において有意な低下が見られることが分かった。 本研究では、双極性障害に対してもSLC35B2に関する遺伝子関連解析と死後脳を用いた発現解析を行った。SLC35B2は双極性障害と有意な関連があることが示され、また死後脳では発現が低下していることが見出された。更にSLC35B2の発現低下は、双極性障害の治療薬であるリチウムを服用していない患者において低下が大きく、リチウムを服用している患者では健常者と有意な差がないことがわかった。これまでの研究では、リチウムは3’(2’)-phosphoadenosine 5’-phosphate (PAP) phosphataseを抑制することが知られている。また3’-phosphoadenosine 5’-phosphosulfate (PAPS)はSLC35B2によりサイトゾルからゴルジ装置に輸送され、sulfa donorとして働く。Sulfationは細胞内の様々なプロセスに関連しているが、本研究で明らかになった、双極性障害におけるSLC35B2の発現低下、またリチウム服用患者における発現低下の改善は、SLC35B2が双極性障害の病態に関連している可能性を示唆している。
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