うつ病や統合失調症患者の中には、向精神薬への反応性に乏しく難治性とされる治療抵抗群が存在する。本研究は、精神疾患と性ホルモンとの関連に着目し、精神疾患の難治化の病態解明ならびに新たな治療法やバイオマーカーの確立を目的としている。 これまでに、我々は、血清cortisol値やcortisol/DHEA-S比、血清IGF-1値がうつ病の重症度に影響を与える因子であること、cortisol、IGF-1が自殺と関連する因子であることを明らかにした。これらの結果をまとめた論文が、Journal of Clinical Psychopharmacologyに掲載された。また、我々は、抗うつ薬で治療抵抗性があり、かつ男性ホルモン値が低下しているうつ病患者に対して当院泌尿器科の協力のもとテストステロン補充療法を施行し、その有効性や副作用を検討した。これは、難治性うつ病に対する性ホルモン補充療法という新たな治療法の可能性を確立するための第一歩となる研究であり、114回日本精神神経学会で報告を行い、優秀演題賞を受賞した。 これらの成果に加え、我々は、血清prolactin値とうつ病の重症度との関連、ベースラインのcortisolの差異が治療経過に与える影響、男性うつ病患者と血清estradiol値の関連について検証し、第115回日本精神神経学会や第29回日本臨床精神神経薬理学会などの学会で報告した。さらに我々は、血清IGF-1値がうつ病の治療抵抗性と関連すること、統合失調症患者の血清IGF-1値、血清cortisol値が統合失調症の重症度や治療抵抗性に影響を与える因子であることを明らかにした。これは、うつ病や統合失調症の難治化ならびに病態解明につながる非常に意義のある研究であり、第40回日本臨床薬理学会で報告を行い、2演題とも優秀演題賞に選出された。
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