研究実績の概要 |
【目的】新規生理活性ステロイドΔ5-Androstendiol(Δ5-diol)と5α-androstane-3β,17β-diol(3βAdiol)の抗うつ効果を検証した.令和2年度に引き続き令和3年度も被験者をリクルートして心理検査,血液検体採取,ステロイドホルモン測定を行い,抑うつ症状とステロイドの関連を分析した. 【方法】研究期間全体を通じて女性23名(卵胞期・排卵期・黄体期の計3回検体採取)と男性25名の計48名から合計92のサンプルを得た.ステロイド測定には液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析(LC-MS/MS)法を用いた. 【結果】 女性の月経周期においては,排卵期が卵胞期や黄体期と比較して3βAdiolとE2の血清濃度が高く,うつ病評価尺度の得点は低かった.Δ5-diolとDHEAの血清濃度には有意な変化を認めなかった.男女の比較では3βAdiolとΔ5-diolは月経周期のどの時点においても女性より男性の方が有意に高い血清濃度を示した.E2血清濃度は女性の排卵期と黄体期で男性よりも有意に高かった.うつ病評価尺度の得点は女性の方が男性より高い傾向を示した. 【考察】女性は男性のほぼ2倍うつ病に罹患しやすく,その性差の原因は未だ不明である.内因性ERβアゴニストが月経周期に関連する女性の気分変動に影響を与えていると仮定すると,その主な要因はΔ5-diolではなく3βAdiolとE2であると考えられた.また,男性のうつ病評価尺度の得点を低値に保つ要因が内因性ERβアゴニストにもあるとすれば,この保護効果はE2ではなく3βAdiolとΔ5-diolに起因すると考えられた. 本研究が明らかにした3βAdiolとΔ5-diolの血清濃度の明確な性差は,うつ病の病態生理の理解を深める上で重要な知見であり,うつ病の新しい治療法や予防法の開発につながる可能性がある.
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