研究課題
平成29年度は、βヒドロキシ酪酸(BHB)の中枢での有効性を確認するために、ラット脳に直接投与する実験を行った。部位を前頭前野のprelimbicとinflalimbic、および海馬の歯状回に設定してカニューラを留置し、6週間持続投与可能な浸透圧ポンプを併用して長期投与を行った。また同時に慢性ストレス(chronic unpredictable mild stress:CUS)を実施し、ストレスに対する行動変化を観察した。その結果、特に前頭前野においてCUSによる抑うつ行動がBHBにより改善することが分かった。これまで我々はBHBの全身投与による脳内炎症の改善とCUSによって引き起こされるうつ病様行動の改善を報告してきたが、脳実質にごく少量のBHBを持続投与するのみで抗うつ作用を見出すことができたことから、BHBはストレスによって誘発される脳内炎症を抑制した結果、うつ病様行動の誘発を抑制するものと考えられた。現時点では有意な差として証明できていないため、引き続き本実験を継続している。また当初co-immunoprecipitation + western blot法を用いて活性型NLRP3インフラマソームを測定する予定であったが、まずNLRP3の脳局在を明らかにすべきと判断し、免疫染色法を用いた同定を行っている。有効な抗体が存在しないなど主義的な困難さのため難航しているが、現在手技が概ね確立したところであり、今後部位の同定に取り組む。また平成30年度に予定していたBHBの経口投与実験にも着手している。BHBを摂取した際の血中濃度の推移、および長期投与の安全性を確認することができたため、今後慢性ストレスを与えた動物に対する投与実験も行う。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の当初計画では、①BHBによるNLRP3の抑制作用の確認、②中枢へのBHBの直接投与による効果の検証、③マイクロダイアリシス法を用いた脳内物質の経時的変化の確認、としていた。②の中枢投与実験は概ね順調に進んでおり、抗うつ効果は特にBHBの前頭葉投与による抗炎症作用が有効であることが示された。また平成30年度に予定していたBHBの経口投与実験も前倒しで実施できている。一方、①のNLRP3活性化の観察実験は、まず部位同定を優先する方針とし実施しているため平成30年度での実施に変更とした。また③のマイクロダイアリシスによるサイトカイン等の測定に関しても平成30年度での実施とした。当初計画から順序等を変更したものの、総じておおむね順調に進展していると判断する。
まずBHBの中枢投与による効果を十分に確認し、BHB製剤を用いたうつ病治療の方向性を確実にする。またNLRP3活性の脳部位同定を完了させ、同定した部位でのインフラマソーム形成について確認を行う。これらを元に、また平成29年度に確認した経口BHB投与に関して、慢性ストレスモデルにおいてその効果を検証する。当初計画で、①行動が改善すること、②IL-1βの上昇を抑制すること、③NLRP3の活性化を抑止すること、④有害事象を呈さないこと、の確認を予定していたが、④の有害事象に関しては既に確認できたため、残りの実験を完了させる。BHBの経口投与は人でも安全性が確認されているため、抗うつ効果が証明されれば、ヒトへの応用も視野に入るものと期待される。
残額が小額であり、次年度に持ち越した。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 1-11
10.1038/s41598-017-08055-1