研究課題
わが国の認知症高齢者数は増加の一途を辿っているが、認知症の進行を抑制する根本的治療薬の登場はまだ先であり、認知症治療は4種類の認知症治療薬に当面頼ることになる。認知症治療薬がニューロン以外の細胞に及ぼす作用メカニズムについて知見が大きく不足している現状から、本研究では神経炎症仮説、脳血管性仮説に基づき、認知症治療薬がミクログリア活性化およびミクログリアとともに脳神経血管機構を担う脳血管内皮細胞にどのように作用するのか、細胞内メカニズムを解明することを目的としている。主要な認知症治療薬であるドネペジルについて、ミクログリアに対する作用と細胞内メカニズムを、関連タンパク活性化・動態を主にフローサイトメトリー法(FCM)で、一酸化窒素(NO)産生能をNOイメージング、TRPチャネルを介した細胞内Ca2+動態をCa2+イメージングを用いて解明した結果、ドネペジルはミクログリアに対する直接作用を有しており、炎症関連物質の発現やNOの産生・放出を低下させるほか、細胞内Ca2+動態を制御する可能性が示唆された(Haraguchi Y, Mizoguchi Y et al. 2017 J Neuroinflammation)。さらに、ドネペジルにはミクログリアの貪食能(Aβタンパク貪食能を含む)を増強する作用があり、その機序としてTREM2、DAP12等の発現を増強する作用も有することが明らかとなった。一方、他の認知症治療薬であるメマンチンには、貪食能を増強する作用はないが、ドネペジルとは異なる細胞内機序を駆動する可能性が示唆された。また、ドネペジルおよびメマンチンの脳血管内皮細胞に対する作用についても、ドネペジルが細胞内Ca2+動態に関わるTRPM7、TRPC3の発現や、Aβタンパクの処理に関わるADAM17等の関連タンパクの発現を増強するなど、直接作用を有することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画に予定していたミクログリア(6-3細胞)-BEC(bEnd3細胞)共培養系の確立がされていないが、動物実験あるいはヒト死後脳を用いて研究成果を追試、確認する計画が進んでいる。
ミクログリア(6-3細胞)-BEC(bEnd3細胞)共培養系を確立し、Aβタンパクでミクログリアを活性化させた後、bEnd3細胞の経内皮細胞透過性について蛍光色素Na-Fの透過係数を、また輸送担体P-糖タンパク(P-gp)機能ついてRhodamine123細胞内取り込みを、FCMにて測定する。内因性物質として、TNFαあるいはBDNFの役割に注目する。ドネペジルはミクログリアの貪食能を増強する作用を有することをin vitro実験系で確認したが、この結果は臨床上大変重要性が高く、動物実験あるいはヒト死後脳を用いて研究成果を追試、確認したい。
消耗品の定額との差額が生じたため次年度へ繰り越し、主に消耗品の購入に使用する。
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Psychiatry Res.
巻: 273 ページ: 67-74
Sleep Breath.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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