研究課題/領域番号 |
17K10286
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
斎藤 顕宜 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (00366832)
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研究分担者 |
山田 美佐 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 科研費研究員 (10384182) [辞退]
岡 淳一郎 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (40134613) [辞退]
山田 光彦 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, 部長 (60240040) [辞退]
関口 正幸 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第四部, 室長 (80260339)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オピオイド / 不安 / 恐怖 / 抑うつ / 情動 / 内側前頭前野 |
研究実績の概要 |
恐怖記憶は生物が危険を回避して生存するために不可欠な情動機能である。ヒトの場合、過度な恐怖記憶が心的外傷後ストレス障害等の精神疾患につながることが示唆されており、恐怖記憶を調節できる薬物の治療薬開発が望まれている。δオピオイド受容体は情動に関わる脳部位に多く存在しており、これまでに我々は、選択的δオピオイド作動薬が抗不安様作用を示すことを報告してきた。本研究では、不安症の新しい治療薬候補である選択的δオピオイド作動薬の抗不安様作用機序を明らかにする一環として、恐怖記憶形成後の消去学習に及ぼす影響について検討を行った。 C57BL/6Jマウス(5週齢)を用いて文脈的恐怖条件づけ試験を行った。1日目に電気刺激(0.8 mA、1秒間、30秒間隔で8回)を与え条件づけを行い、2日目に消去学習、3日目にテストとして6分間同じ実験箱に再曝露し恐怖応答(すくみ行動)を観察した。消去学習の30分前に選択的δオピオイド受容体作動薬KNT-127およびSNC80を皮下投与した。 条件づけ24時間後の消去学習30分前にKNT-127を皮下投与することで、消去学習時および翌日のテストにおいて恐怖応答が有意に減弱した。一方、SNC80投与では、恐怖応答は消去学習時には有意に減弱したが、テストでは対照群と同程度まで上昇した。 以上の結果から、KNT-127は、SNC80と異なり、恐怖記憶の消去学習を促進させることが示唆された。さらに、KNT-127は、オピオイドδ受容体のバイアスドリガンドであり、消去学習における両薬物の作用には、異なるシグナル伝達の関与が考えられた。現在、作用部位の可能性が高い扁桃体、内側前頭前野、海馬における分子メカニズムについて検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討から、代表的不安評価系の1つである恐怖条件付け試験において、構造の異なるオピオイドδ受容体作動薬(SNC80、KNT-127)が、共通して抗不安様作用を示すことを明らかにした。興味深いことに、恐怖記憶の消去学習亢進作用は、KNT-127においてのみ認められたことから、KNT-127は、オピオイドδ受容体のバイアスドリガンドの可能性が示唆された。このことは、オピオイドδ受容体作動薬の抗不安作用機序を明らかにするのに、本モデルが、極めて有用であることを意味している。 来年度は、試験計画に記載していた①分子レベルでの検討および②光遺伝学的手法(チャネルロドプシン評価系)を用いた検討を開始する予定であるが、今年度、これら評価系の準備も順調に進めることができた。具体的には、予備的検討ではあるが、偏桃体におけるある特定の分子が、KNT-127の消去学習に伴って増加すること、SNC80では変化しないことを明らかにした。また、チャネルロドプシン評価系に必要なベクターを内側前頭前野に処置し、偏桃体において発現することを確認した。来年度はこの系用いた神経回路の検討を行う予定である。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
試験計画書に従って、今年度で得られた成果を下に、①偏桃体のオピオイドδ受容体作動薬の抗不安様作用の分子メカニズムを、Western blot法を用いて、明らかにするとともに、②オピオイドδ受容体を介した情動制御の神経回路ネットワークを光遺伝学的手法(チャネルロドプシン)を用いながら明らかにする。 具体的には、不安表出および恐怖想起時に扁桃体において様々な転写因子(p-CREB、ARK 等)が活性化することが報告されている。そこで今年度系を確立した条件付け不安モデルを用いて、扁桃体各亜核(BLA、中心核他)における不安表出および恐怖想起時の転写因子発現に与えるKNT-127 の影響を検討する。さらに必要に応じてDOPの関与を明らかにするためにDOP拮抗薬(ナルトリンドール)を用いる。なお、転写因子の発現解析はWestern blot 法もしくは免疫組織化学的手法を用いる。 また、情動の制御には、内側前頭前野/扁桃体等の様々な脳部位により構成される神経回路ネットワークが重要である。本研究では、BLAを含む情動制御の神経回路ネットワークにおけるDOP の役割を解明するために、マイクロダイヤリシス法を用いて、不安表出および恐怖想起時の細胞外モノアミン(セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン)及びアミノ酸(グルタミン酸、GABA)濃度に与えるKNT-127の影響を検討し、責任入力回路を探索する。さらに、オプトジェネティクス(光遺伝学)技術を用いて、探索された責任入力回路へ、ウイルスベクターを投与し、チャネルロドプシンを投射部位(BLA 等)に発現させたマウスを用いて、投射部位(BLA 等)を光刺激することにより誘発される不安行動に対するKNT-127 の影響を検討する。
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