研究課題/領域番号 |
17K10294
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
入谷 修司 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (60191904)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経病理 / 統合失調症 / 精神病症状 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
研究課題の目的は、「高齢期における精神病症状の神経病理的基盤の解明」であり、成人後期以降・高齢期に呈する精神病性障害の病態解明である。 昨年度には、統合失調症の長期経過の後の認知症症状について、3症例の神経病病理学的所見をパイロットスタディとして検討した。今年度はそれに引き続いて統合失調症の長期経過後の認知機能低下が疾病自体によるものか神経変性疾患の併存かについて、名古屋大学精神科コンソーシアムブレインバンクに保存された統合失調症脳について、神経変性疾患の合併が統合失調症の症状に与える影響を検討した。その結果、統合失調症のearly-onset群(発症年齢40歳未満)30例を対象とした。神経病理所見の評価については、HE染色、KB染色の古典的な標本作製および、ベータ・アミロイドおよびタウの免疫染色、レビ-小体の免疫染色標本作成を行い、CPCにおいて顕微鏡観察にて検討し神経変性疾患の頻度について神経病理学的評価を行った。一方、臨床情報に関しては後方視的に診療録から調査した。その結果、平均死亡時年齢は69.4±10.1歳。AD2例、LBD2例、AGD3例、進行性核上性麻痺1例、Globular glial tauopathy1例の病理診断を各々満たしていた。12例で、60歳以降に元来の残遺状態とは区別される認知症症状が認められ、臨床上、神経変性疾患の存在が疑われたが、うち5例ではごく軽度の神経変性病理所見を認めるのみであった。 統合失調症患者における認知症症状の生物学的背景はいまだ不明であるが、必ずしも神経変性病理のみが原因ではなく、脳/認知予備能の観点からは、疾患脳の何らかの脆弱性の上に、ごく軽度の合併神経変性病理所見が認知機能低下に影響した可能性が考えられた。これらの所見について、学会報告し、他の研究者と議論し、論文化へむけて精度を向上させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、神経病理学的な手法を基盤にしている。そのため、対象とする疾患の保存死後脳(ブレインバンク)すなわち、複数の精神科病院で病理解剖によって得られた脳組織検体が必要である。日本においては、共有できる精神科ブレインバンクがないため名古屋ブレインバンクコンソーシアムを立ち上げて本研究のための脳検体の蓄積を継続的に行っている。蓄積だけでなく、それらの脳検体から標本作製をし、CPC(臨床病理カンファレンス)にて複数の神経病理医とのディスカッションを経て病理確定診断をおこなっている。一方で、後方視的に診療録から診断基準に基づいて複数の精神科専門医にて精神医学的評価をおこない妥当な精神症状・精神科診断の評価をおこなっている。 今年度(平成31(令和元)年度の精神科病院での剖検数は、25例で、昨年度実績の2倍以上となっており、順調に研究活動が進行している。日本ではこのような精神疾患の剖検数の実績をあげている機関は唯一である。一方、本年度のCPC実績は、19症例であり昨年度より4症例多く、これも順調にすすんでいる。このように、剖検とそれに続くCPCは、病理学の基盤であり、本研究課題の礎である。これらのコレクションをベースにした「統合失調症にみられる認知症症状の神経病理背景の観察」は、その病因病態解明には重要な情報を提供しうる。一方で、死後脳の凍結資料からDNAコレクションを作成している。そのなかで、22q11.2欠失症候群(精神疾患を伴いやすい症候群)を見いだした。この死後脳の検証は、ゲノム情報と神経病理学的現象を結びつけ、病因病態を解明する有効な手段である。現在、この症例の臨床像および神経病理検索、ゲノム情報の相関関係を検討し、論文化をすすめている。 以上から、本課題の進捗は順調と評価される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の課題を推進・発展・加速させるために、引き続き研究リソースである剖検脳の蓄積を積極的におこなう。そのために、臨床においてブレインバンク活動を活性化させるために、臨床医・一般市民へのアナウンスメンとおよび献脳生前登録も進めていく。そのために、第116回日本精神神経学会(2020年6月(仙台))にてブレインバンクのシンポジウムに応募し採択されている。また、第35回日本老年精神医学会(2020年6月(米子))、第25回日本神経精神医学会(2020年10月)、第39回日本認知症学会(2020年11月(名古屋)において、本研究課題関連テーマをシンポジウムで講演予定である。 また、CPC(臨床病理カンファレンス)を継続的におこない臨床評価と病理評価情報を蓄積していく。その中において、従前からおこなっている高齢者の認知症をふくむ精神症状の病理学的な背景の検討をすすめる。そして、医学的学術進歩に貢献しうると考えられる症例については、学会および学術論文として積極的に報告していく予定である。脳組織の付加情報としてDNAライブラリーも引き続いて整備していく。このような、ブレインバンク活動は、本研究課題を推進するだけでなく、後の脳研究への財産になる。これは、AMEDブレインバンク活動と連動しており相補的に研究推進および基盤形成に努める。 今後は、統合失調症の長期経過症例の蓄積をおこない、その臨床症状の経過変遷・変化と脳神経病理の関連を検討し、この疾患の病態を明確化する。そのために、古典的なHE染色やKB染色のみならず、TH(Tyrosine Hydroxylase)、GABAergic neuron (NeruropeptideY、Carbindin etc)などの神経伝達物質の免疫染色を駆使し、より機能的な病理評価をおこない病態解明をすすめ精度の高い報告をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該の課題は当初3年の予定であったが、最終年度において、いくつかの成果をより精度を高めるため必要がでた。当該課題への補助事業を1年延長し、次年度(平成2年度)に助成金を持ち越したため、次年度に使用額が発生した。 使用計画としては、当該研究の元になる剖検活動を継続させて、さらに剖検脳をの蓄積症例をふやし、さらにすでにいくつか結果が出ている者については、論文化をすすめ業績として世の中に還元する。 また、症例報告を中心に、学会などで報告し学術的な貢献に資する。
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