研究課題
本研究は、「高齢期における精神病性症状の神経病理学的基盤の解明」を目的とし、臨床神経病理学的な技法を用いて、高齢期の精神症状を脳病理の視点からその病態の明確化を目指したものである。アルツハイマー病などの認知症性疾患の神経病理学的研究は進んでおりその臨床症状と病理関連も明確になってきているが、一方で、成年後期・高齢期に呈する精神症状の脳病理については十分に検討されていない。そもそも統合失調症などのいわゆる内因性精神疾患の神経病理学的研究は古くから行われていたが、古典的な脳神経病理学的解析においては有意な所見を欠き方法論的な問題も抱えていた。このような背景において、本年度では、高齢期の統合失調症の精神症状について、免疫染色などを駆使した神経病理学的検討を加えた上で、認知機能等に影響を与えうる脳病理を明確化することを目指した。従前から、若年発症の統合失調症の長期経過例で、しかも認知機能の著しい低下を示した症例の死後脳を蓄積してきた。今回、これら高齢期統合失調症の3症例について詳細な臨床神経病理学的な考察をおこなった。その結果、認知症症状を呈する臨床症状を説明できうる有意な病理所見を欠いていた。この結果につき英語論文化し報告した。さらに同様の検討で、認知症状を呈した高齢期統合失調症で、ごく軽度のプレクリニカルなアルツハイマー病理を呈した症例について英語論文化し報告した。以上から、高齢期の統合失調症者の認知機能低下(認知症症状)についての生物学的背景はいまだ不明であるが、かならずしも変性疾患病理が合併した結果でなく、疾病そのものによる脳の認知機能の予備能力低下や脳脆弱性などを背景に、わずかな加齢性変化においても顕著な臨床症状を呈することが示唆された。このことは、高齢期の統合失調症の病態理解や治療・療養・ケアーにおいて有用な知見であると考えられた。
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