研究課題
iPS幹細胞技術とCRISPR CAS9遺伝子編集技術を組み合わせ、ヒト神経細胞でのアルツハイマー病の分子メカニズムを解明し臨床応用のシーズとなる新たな治療戦略を探索する当初研究を計画通り実施した。平成29年度の成果概要は以下の通りである。1、Aβ分泌測定・細胞内Aβ測定・我々が開発したγセクレターゼ産物を測定などを総合して、Aβ産生を行うγセクレターゼ活性をより正確に測定する方法を確立した。そして、第2-3相治験で使用された分子標的薬剤が設計通りの機能を神経細胞で発揮するか検討した。その結果、γセクレターゼ阻害薬とされてきた薬剤は実は酵素の阻害を十分に行わず、細胞外に分泌されるAβを減らしているだけであることが明らかになった。その結果をCell Reports誌に発表した。これは、既存の不十分な見えてこなかった、今まで置き去りにされてきた薬剤の作用の問題点に明らかにする結果である。2、阪大病院で診察中の患者とその家族からから皮膚繊維芽細胞を採取し(大阪大学付属病院・倫理委員会承認番号803-3)、山中因子を導入することでiPS細胞化しそれを大脳皮質神経細胞に効率的に分化させた。また、CRISPR CAS法を用いたゲノム遺伝子編集技術を用いてアルツハイマー病原因遺伝子プレセニリンKO細胞を作成し、その細胞のAβ産生がどのように変化するか検討している。βAPP遺伝子を削除したiPS神経細胞を作成中である。3、マウスでの遺伝子編集技術を用いた研究は30年度以降に実施の予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画の柱のうち1、「iPS幹細胞技術とCRISPR CAS9遺伝子編集技術を組み合わせ、分泌Aβ測定や我々が開発した細胞内γセクレターゼ活性を正確に測定するアッセイ法を駆使しアルツハイマー病薬剤開発に応用する」については、第3相治験に使用された薬剤の作用点が当初目標と異なることを明らかにし所定の目標に到達した。2、「患者iPS幹細胞に遺伝子編集を行い病原性を著しく低下させたアルツハイマー病患者神経細胞を作成することができるか検討する」については、βAPP遺伝子を削除したiPS神経細胞の作製に取り掛かっている。3、「病原性の低いマウスiPSを作成し、アルツハイマー病モデルマウス脳内に投与しその認知機能低下を改善できるか検討する」については、次年度以降に開始する。
・患者iPS幹細胞にβAPP遺伝子を削除し病原性を著しく低下させたアルツハイマー病患者神経細胞を作成し、神経細胞に分化させその性質について検討する。我々はCRISPR CAS9遺伝子編集技術をiPS細胞に応用している。遺伝子編集技術を用いて患者細胞を病原性の低い神経細胞に変化させることができないか検討する。具体的にはβAPP遺伝子を削除したiPS神経細胞の作製を試みる。そして成功すれば新規作成細胞の性質を検討する。・βAPP遺伝子を削除したマウスiPSを作成し、アルツハイマー病モデルマウス脳内に注入する。その認知機能低下を改善できるか検討する。3、iPS神経細胞の応用可能性について、認知機能改善に資するかどうかマウス由来のiPS細胞を作成し、それをアルツハイマー病モデルマウスに注入実験に向けて準備を進める
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cell Rep.
巻: 21(1) ページ: 259-273
doi: 10.1016/j.celrep.2017.09.032.