研究課題/領域番号 |
17K10300
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 美智子 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50647625)
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研究分担者 |
安田 由華 大阪大学, 医学部附属病院, 特任助教(常勤) (20448062) [辞退]
山森 英長 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (90570250) [辞退]
工藤 紀子 大阪大学, 情報科学研究科, 特任研究員 (30751151)
畦地 裕統 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 特任研究員 (90615296) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 中間表現型 / 眼球運動異常 / 生物学的精神医学 |
研究実績の概要 |
統合失調症のリスクに関わる神経生物学的な表現型である中間表現型には、本研究で着目している眼球運動異常の他に、言語性記憶、視覚性記憶、注意・集中力、遅延再生記憶、言語流暢性、ワーキングメモリー、知能などの認知機能、三次元脳構造画像、拡散テンソル画像やresting stateの機能的MRIなどの脳MRI画像などがある。本年度はクロザピンを使用した治療抵抗性統合失調症患者7名について、クロザピン治療前後での中間表現型の変化に着目し予備研究を行った。統合失調症患者の約3割は治療抵抗性と考えられているが、クロザピンは治療抵抗性統合失調症の6-7割に有効な抗精神病薬である。しかしクロザピンの作用機序および他の抗精神病薬との差異について詳細は明らかになっていない。また統合失調症の病態を知る上で、眼球運動などの生理機能、認知機能、遺伝子、脳MRI画像などが有用であるが、クロザピン治療がこれらの中間表現型にどのような影響を与えるのか分かっていない。我々は過去に、眼球運動検査のデータから算出される眼球運動スコアが、統合失調症患者と健常者の判別指標になることを報告しているが、クロザピン治療により6名の眼球運動スコアは改善し、眼球運動スコアを構成するフリービューイング課題におけるスキャンパス長、追跡眼球運動課題における水平位置ゲイン、注視課題における注視時間いずれも改善傾向を認めた。またWAIS-IIIで測定した認知機能も改善傾向を認めた。このように、クロザピン治療により中間表現型が変化し、眼球運動スコアについてはstate markerの要素を含んでいる可能性が示唆された。現在はさらにサンプル数を増やして、結果の再現性を確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に被験者のリクルートシステムが整っており、現在、入院および外来患者をリクルートし、DSM-5による診断を行ったうえで、採血および各種の生理機能検査、画像検査を行っている。研究に取り掛かるためのサンプル収集は済んでおり、さらにサンプルを増やすための体制が確立されている。また眼球運動異常と他の中間表現型との関連を調べるため、被験者に対してWAIS-III、WMS-R、社会活動評価などの心理検査、脳波検査、脳MRI検査を行っている。なお、より病態を反映する良質なデータを得るため、眼球運動検査の手法、課題やデータの質の吟味についても改善を重ねている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、健常者群および患者群のリクルートを行い、神経心理、脳形態、神経生理といった中間表現型の関連やリスク遺伝子の発現量の程度について、さらにサンプル数を増加して比較検討を進める。統合失調症については、治療抵抗性群にも焦点を当ててデータ解析を進めていく。また眼球運動検査をはじめ中間表現型を形成する検査方法について、より疾患を反映するデータが得られるよう手法や課題内容、データの質の吟味について改善を行っていく。現在、包括的遺伝解析研究の一環として学内外の研究者を中心とした脳表現型の分子メカニズム研究会に定期的に参加し、ヒトの脳表現型と遺伝子の関連を検討している。引き続き討論を進めていく。学会および打ち合わせ等は前年度と同様である。 大阪大学では、包括的な臨床・研究システムとして、統合失調症プロジェクト(SP : schizophrenia project)を行っている。SPは、統合失調症専門外来と統合失調症入院プログラムからなる臨床部門と、そこで得られたリサーチソース・データベースを用いた臨床研究部門・基礎研究部門からなる。本研究で用いるサンプルはこのプロジェクトからリクルートしたものであり、申請者は研究協力者である橋本亮太(国立精神・神経医療研究センター/大阪大学兼任)らと共にSPを運営している。申請者は研究協力者に必要に応じて適切なアドバイスを受けることができる。既に入院および外来患者をリクルートし、DSM-5による診断を行ったうえで、採血および各種の神経生理機能検査を行っている。このように研究に取り掛かるためのサンプル収集は済んでおり、さらにサンプルを増やすための体制が確立されていることにより、本研究を効果的、効率的に推し進めることができる。上記の実験と共に、サンプル収集もこれまで同様に継続して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ解析の補助を行うための研究補助員の雇用を予定していたが適任者が見つからなかったため当初予定していた人件費が未使用となった。しなしながら、解析ソフトを用いることでデータ解析は予定通りに進んだため研究の実施には全く問題はなかった。未使用額については最終年度となる次年度にさらに研究を加速させるために適任者を探し雇用する予定である。
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