研究課題
孤発性アルツハイマー病は、その患者数も社会的負担も極めて大きいのにもかかわらず、効率的な治療法はなく、その発症メカニズムもいまだに解明されていない。孤発性アルツハイマー病は複雑な多因子疾患であり、疾患として不均一である。本研究はアルツハイマー病の複雑な分子発症メカニズムを強力に明らかにしつつある。さらには不均一なアルツハイマー病の再分類にもつ案がる知見を提供しつつある。我々はアルツハイマー病の中心病理であるAβ脳内蓄積を制御する遺伝子産物KLC1vEを同定している(PNAS 2014)。超大型GWAS(Genome wide association study)により報告(Nature Genet 2013)されたアルツハイマー病リスク遺伝子X(ここでは非公開)は全く機能不明であった。この遺伝子XがAβ蓄積規程因子KLC1のスプライシングを制御していることを証明しつつある。背景遺伝子を混合されたマウスにおいてKLC1領域がDBA/2由来であると、C57BL/6やSJLだった場合に比べKLC1vEが高値で脳内Aβ蓄積量が高値であることを報告している(PNAS 2014)。この結果をさらに確実に補強するためKLC1領域をスピードコンジェニック法によりC57BL/6からDBA/2に置換したコンジェニックマウスの開発がすすんでいる。さらには背景遺伝子を混合させたマウスの網羅的脳内遺伝子発現データーとヒトGWASの統合解析を行った。マウスとヒトという異種、トランスクリプトミクスとゲノミクスという異種のオミックスの統合解析である。その結果、新たなアルツハイマー関連遺伝子LBHとSHFを同定し報告した(Hum Genet. 2018 ;137(6-7):521-533)。この2つの遺伝子はヒト剖検脳でも発現量がアルツハイマー病群とコントロール群で有意に異なっていた。
1: 当初の計画以上に進展している
コンジェニックマウス開発は技術的トラブルからやや遅れている。一方KLC1を制御する因子の同定と解明については大きな成果が得られており、当初想定以上に信頼性の高い結果が得られている。培養細胞実験では複数の細胞で遺伝子XのKLC1への効果が確認された。ヒト剖検脳でも遺伝子XとKLC1の強力な関係が観察された。剖検脳の公開データーベースでも遺伝子Xの発現とアルツハイマー病の関係が確認された。さらにはマウストランスクリプトミクスとヒトGWASという異種オミックスを統合解析することで、新規のアルツハイマー関連遺伝子を同定した(Hum Genet. 2018 ;137(6-7):521-533)。全体としては計画以上の進展である。
KLC1をターゲットとした治療薬開発のための基盤となる研究を開始する。遺伝子XとKLC1の関係が直接的であることを検証する。KLC1領域をC57BL/6からDBA/2由来に置換したコンジェニックマウスの開発を継続する。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Hum Genet
巻: 137 ページ: 521-533
10.1007/s00439-018-1906-z
http://www.med.osaka-u.ac.jp/introduction/research/endowed/precision-medicine-for-dementia
http://www2.med.osaka-u.ac.jp/psy/laboratories/lab01/amyloidbeta.html