研究課題/領域番号 |
17K10304
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
福森 亮雄 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 室長 (00788185)
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研究分担者 |
工藤 喬 大阪大学, キャンパスライフ健康支援センター, 教授 (10273632)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エクソサイト / γセクレターゼ / プレセニリン / ニカストリン / アミロイド前駆体蛋白 / アルツハイマー病 / 非天然アミノ酸 / 光親和性クロスリンク |
研究実績の概要 |
研究はおおむね順調に進展している。アルツハイマー病のアミロイドβ(Aβ)の直接の前駆体であるC99は、エクソサイトと呼ばれる基質結合部位に結合したのちに、触媒部位に運ばれて切断される。前年度、我々は、C99と同じくアミロイド前駆体蛋白(APP)由来でγセクレターゼの基質であるC83について調べた。C83はC99上の主要なエクソサイトと相互作用するアミノ酸残基を欠いており、エクソサイト認識機構についての手がかりが得られるかもしれないと考えた。前年度、「C83もエクソサイト構成蛋白と相互作用するが、C99とは異なるアミノ酸残基である」という予備的データを得ていた。本年度はそれを再現し、さらにそれを裏付けるデータを得て、確定した。この事から、γセクレターゼのエクソサイトでの基質認識は構造柔軟性があることが示唆された。さらに、基質の切断が極めて少ないポイントミューテーションに焦点を当て、その変異体のエクソサイトへの結合とそのγ切断を調べ、エクソサイトへの結合の低下によりγ切断の減少がおこることを示唆するデータを得た。また、昨年度に引き続き、NCT・PEN2の結合順序やメカニズムモデルを構築するため、抗体やペプチドなどのツールを準備し、エクソサイト結合に対する競合実験系の準備を整えた。加えて、エクソサイトを構成する蛋白のアミノ酸部位を同定するために、質量分析解析の準備をした。以上の状況を踏まえ、次年度には、APP自体を修飾することにより、APP特異的にエクソサイトへの結合阻害を行うことができるかをメインに検討していく予定である。これには、報告されているAPP結合ペプチドやAPP抗体をAPP-C99の結合評価系に添加し、その結合の変化を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、コンストラクトや評価系の作成が進んでいる。前年度、我々はC99と同じく、アミロイド前駆体蛋白(APP)由来であり、かつ、C99上の主要なアミノ酸残基を欠いているγセクレターゼの基質であるC83について調べた。C83もエクソサイト構成蛋白と相互作用し、しかもC99とは異なるアミノ酸残基で相互作用するという予備的データを得ていた。 本年度は、そのデータを再現し、確定した。具体的手法として、アミロイド前駆体基質(C99およびC83)のγセクレターゼのエクソサイトへの結合の可視化は、ケミカルバイオロジーの技術のひとつである部位特異的光親和性クロスリンク法を用いた。分子中の任意の1アミノ酸をクロスリンク可能な側鎖を持つ非天然アミノ酸に置き換えたC83を大腸菌に発現させC末端のHISタグにより精製した。その精製C83基質をγセクレターゼを含む細胞溶解液と混合し、インタクトな結合状態で、光照射しクロスリンクさせた。その後、変性条件で、複合体を解離し、HISタグを用いてプルダウンし、ウェスタンブロット法で、分子量の増加した基質と共有結合している酵素分子を検出した。C83とγセクレターゼとの相互作用部位のマッピングを各アミノ酸部位につき3回以上行い、データを確定した。さらに、基質の切断が極めて少ないポイントミューテーションに焦点を当て、その変異体のエクソサイトへの結合とそのγ切断を調べ、エクソサイトへの結合の低下によりγ切断の減少がおこることを示唆するデータを得た。具体的には、そのポイントミューテーションとのダブル変異体を作成し、エクソサイト結合を変異の有無で比較した。その変異体では、エクソサイトへの結合が顕著に低下しており、そのようなポイント変異を模倣・誘発するような化合物を見つければ、治療薬につながることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から本年度にかけて、1)C83とγセクレターゼとのインターアクションのマッピングのデータから、C83はC99と比べて、ニカストリン, Pen-2, プレセニリン1-NTFにおいて、そのエクソサイト結合は変化しており、エクソサイトでの基質認識の柔軟性があることを示唆するデータを得た。2)基質の切断が極めて少ない細胞外にあるポイントミューテーションでは、エクソサイトへの結合が顕著に低下しており、そのようなポイント変異を模倣・誘発するような化合物を見つければ、治療薬につながることが示唆された。以上の結果を踏まえ、APPを修飾することにより、APP特異的にエクソサイトへの結合阻害を行うことができるかをメインに検討していく予定である。これには、報告されているアミロイド結合ペプチドやAPP抗体をC99の結合評価系に添加し、その結合の変化を調べる。また、この実験から、エクソサイト内の結合の上位性についての示唆も得られるかもしれない。つまり、これらの添加物は酵素と基質の結合を阻害するから、結合が減少する蛋白は下流で、結合が増加する蛋白は上流で働くと解釈できる。この実験では必要に応じて、コントロールペプチドを用意し、データを確定する。また、エクソサイトを構成するアミノ酸部位を同定するために、質量分析器でクロスリンク産物の配列解析し、クロスリンクアミノ酸を決定する。そのための工夫として、糖鎖付加のない細胞GNTI/293cellでのニカストリンとのクロスリンク実験系を構築し、それをスケールアップして、ゲルから切り出し、質量分析器で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
追加実験のために増えたサンプルを効率よく測定するため、サンプルの解析を次年度にまとめて行うことにしたため、次年度に使用することとした。
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